ずっと見たいなと思っていた石田祐康監督の短編アニメ『陽なたのアオシグレ』を鑑賞しました!
わずか18分の短編ですが自分の大好きな要素が凝縮されたような作品。本当に素晴らしくて何度も何度も繰り返し見てしまいました。
『陽なたのアオシグレ』PVより画像引用 (当ブログの画像引用について) (C)Studio Colorido |
2013年公開の短編作品ですが予告編がものすごっっっく大好きで、ずっと本編見たいな〜って思ってたんですよね。
なかなか見る機会がなかったのですが『スタジオコロリド10周年祭』の期間限定配信で思いがけず鑑賞できました。
※後半からネタバレありのレビューになりますのでご了承ください。
見逃して後悔していた、石田祐康監督の初めての映画作品
監督は石田祐康さん。大学在学中の自主制作アニメ『フミコの告白』(2009年)は自分もTwitterで知って驚いた覚えがあります。最近では2018年の大ヒット作品『ペンギン・ハイウェイ』を監督してさらにびっくりしました。
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その石田祐康監督の初めての映画作品となったのが、この『陽なたのアオシグレ』です。これ上映当時はよく知らなくって見逃してたんですよね。ずっと後に予告編を見てあまりの素晴らしさに後悔してました。
とはいえ、予告編が好きすぎる作品って本編見るとちょっとガッカリってパターンもあるので心配だったんですよね。
でも、そんな心配は全くの杞憂で予告編の好きさをそのまま拡大したような理想的な本編でした。
楽曲をモチーフにした作品
同じように予告編が素晴らしい短編といえば新海 誠監督の『秒速5センチメートル』(2007年)がありますよね。『秒速』も超絶大好きな作品ですが、『陽なたのアオシグレ』も『秒速』と同じように、すでに存在する楽曲を柱にした構成なんですよね。
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『秒速』での山崎まさよし『One more time, One more chance』にあたるのが、スピッツの『不思議』なんですが、まさにこの歌詞をモチーフにしたんだろうなっていうのは伝わるんだけど、それがベタになりすぎないというか『こう来るか!』って感じの捻り方。
外部リンク スピッツ『不思議』歌詞:Uta-Net/歌詞を読みがなら劇中歌を聞くとさらに味わい深いです。
当然ながら単体でも素晴らしい楽曲だけど、この作品の劇中で見ると本当にものすごい相乗効果で、無限に繰り返してしまう中毒性がありますね。
※次章から内容に関する描写がありますので未見の方はご注意ください。
挿入歌シーン4分半のすさまじい魅力
こういう挿入歌のある作品って今は珍しくないですが、本作はもはやこの4分半を見せるための作品と言ってもいいくらいのものすごいインパクトがあります。
暴論かもしれないけど、この前後のエピソードはプロローグであってエピローグ。そう言いたくなるくらいこの4分半の間にすべてが凝縮されている感じがするんですよね。
まず印象的なのが、スピード感とカメラワーク!
あの列車と白鳥の並走シーンの素晴らしい事・・・通り過ぎた後にスッとカメラが横に移動するような動きが痺れました。
この後カメラがすっと左による演出がすごい快感 『きみで飛べる』という歌詞とのシンクロ感も見事です。 (C)Studio Colorido |
そしてジェットコースターのような重力感!
ギリギリまで誇張した重力の表現に2D作品なのに見ている自分にも重力を感じるほど!白鳥がロータリーを回転するシーンは素晴らしい遠心力を感じましたね。
このふわっと乗り移るシーンもすごく好き 時雨ちゃんの落ちるシーンも見事でしたね。 (C)Studio Colorido |
そして鳥の羽ばたきの力強さもイイ。白鳥が垂直に上昇するシーン。グイグイと泳ぐような筋肉の力強さを感じる素晴らしい描写。
現実にはあり得ないかもしれないのにリアリティーを感じさせるんですよね。
それらが、楽曲とガッチリシンクロしていくのが本当に快感でもう非の打ち所がありません!
伊波さんのセリフの重ね方も最高
さらにセリフとの重ね方も良いんですよね。セリフと楽曲が重なるのを嫌う人もいるけど自分が大好物です。そこで伊波杏樹さんの声がいいんですよね!
主人公『陽向くん』の声はラブライブ!サンシャイン!!の高海千歌役の伊波杏樹さん。17歳で初めての声優作品だったんですよね。今回初めて知って驚きました。
伊波さんの声がぴったりの主人公 ハッとするこの声も良かった。 (C)Studio Colorido |
これがホントぴったりで、走りながら叫び続けるシーンとか息遣いが素晴らしいんですよね。これで17歳だっていうんだから驚きなんだけど、早くも伊波さんの魅力を見抜いているスタッフの先見の明もすごいですよね。
楽曲最後のシーンは見事すぎる・・・感涙
そして楽曲最後のシーン。もう・・・本当にここ素晴らしすぎて言葉がないです。
これだけ熱いシーンの連続で歌も終わって最後の後奏で、ググッと曲線を描いてパンッ!って弾けるような映像。この開放感、この快感、胸がいっぱいになります。
もうこのシーンは胸がいっぱいで涙が出てしまう。 楽曲の最後の最後まで見事な演出。 (C)Studio Colorido |
あり得ない飛行機雲が全く不自然でなく、グーッと近づくカメラワークが本当に快感すぎてもう何度見返したかわかりません。
妄想をエンジンにする心象風景の素晴らしさ
さらに、これも凄まじいと思うんだけど、この描写のほどんどが主人公の『妄想』だって事。
序盤から陽向くんの時雨ちゃんに対する想いが、現実をはるかに超えて膨れ上がっていく感じ。『片思い』とはちょっと違うけど、ある意味一方的な空回りなんですよね。
何もかもが彼の妄想というのもすごいんだけど その歯車が噛み合ってくる時のシンクロ感が素晴らしい。 (C)Studio Colorido |
でも時雨ちゃんとの別れが現実になった時、その『妄想』がエンジンになって現実の陽向くんを猛烈に後押ししてくれる。
この心象風景の描写こそがあの色鮮やかな映像。妄想が現実に噛み合ってグイグイと突き進んでいく。これがホント見事に表現されていましたね。
でも最後まで妄想で完結してしまう。 ラストシーンのずらし方が素晴らしいと思う。 (C)Studio Colorido |
でも最後の最後で、妄想を妄想で完結させてしまう陽向くん。えぇ・・・と思ってしまいますが、それでも現実は『ほんの少しだけ』動く。
そんな結末がホントに痺れる作品でした。
新海誠『秒速5センチメートル』との比較
冒頭でも触れましたが、この作品って新海監督の『秒速』とすごく似た構成になっていると思うんですよね。似てるというか対照的というのかな。同じテーマを石田監督が解釈した作品と言える気がするんですよね。
誤解して欲しくないのは似ているから悪いって意味で言ってるわけじゃないんです。同じテーマでこれだけ対照的な作品を作ってしかも傑作!というのが凄まじいなと。
単純に物語の流れを見ても、幼い恋愛、転校、別れ、渡したい手紙(絵)、列車、妄想の世界を生きる男子、テーマとなる挿入歌・・・と、モチーフや構成が共通しているじゃないですか。
転校する時雨ちゃん。 陽向くんと付き合っているわけではないけれど・・・ (C)Studio Colorido |
これだけ同じならむしろ秒速のコピーみたいになってもおかしくないのに、一見全然似てないのもすごくないですか?
これだけ共通してるのにオリジナリティーがあることに感動しちゃいましたね。
対照的な結末の味わいに感動
そして、特にすごいと思ったのは結末なんですよね。
秒速は主人公がいつしか自分の妄想の世界に生きてしまうという話なるじゃないですか。
その辺が秒速では、すごくいい暗さというか味わいになってて魅力なんですが、本作のひなた君も同じように妄想の世界に生きているという形式をとりながら、対照的なくらいポジティブに明るく描がかれてるんですよね。
妄想が生きるエネルギーという点では秒速の主人公と共通するが (C)Studio Colorido |
そういう『妄想』が主人公の生きるエネルギーになっているという共通点は同じでも、表出するものが、秒速では『過去に束縛される枷(かせ)』であり、アオシグレでは『駆け抜けるエンジンの役割』と全く逆方向になってる。
さらに、秒速では渡せなかった手紙(絵)が、本作では渡せるんですよね、でも告白まではできない。そこで心を通わせ幸せの絶頂に達する秒速に対して、妄想でしか告白をできなかった本作。
秒速では手紙が失われるシーンが印象的だった。 本作では対照的な扱いになっている。 (C)Studio Colorido |
でも、ラストは対照的なんですよね。あの劇的でほろ苦い秒速に対し、ひなた君を思い出してどうしているだろうと思いを馳せるしぐれちゃん。このねじれ方が素晴らしい。
まるで裏表のように似ていながらラストの感慨は全く違っている。この作劇すごくないですか。ここに気付いた時ホント感動しちゃいました。
エピローグのしぐれちゃん。 秒速とは対照的な味わいの終わり方 (C)Studio Colorido |
これは石田祐康監督にとっての新海誠監督へのリスペクトであり、ある種の返歌とも言える作品なんじゃないかと思うんですよね。もちろん妄想ですが(笑)
最後に:石田監督を象徴する勢いある作品
タイトルの青時雨は木立から降り注ぐ水滴を意味する言葉 本編でも表現されていましたね。 (C)Studio Colorido |
ちょっと検索した感じでも当時も秒速との関係を語った話は見つかりませんでしたね。自分としては意外なんですが。
でもその話は別としても石田監督を象徴するような作品なんじゃないかなと思います。本当に素晴らしい作品でした。でも映画館で見たかったなぁ!
石田監督の次回作『雨を告げる漂流団地』も楽しみですね。
追記:石田監督のツイート紹介。恥ずかしいようですが、この勢いと熱さが良いんですよね(笑)
ネトフリで公開されて、本編こそ恥ずかしいので見れないものの(汗)予告だけは久しぶりに見ました。
— 石田祐康 (@tete_hiroyasu) March 6, 2022
当時は人手が足りず予告の編集も自前。ただ主役お二人の素敵な声とスピッツの大好きな楽曲「不思議」をお借りして編集させていただいた刺激は今も覚えてます。感謝です!https://t.co/XtFL0BEe6O
監督・脚本:石田祐康
キャラクターデザイン・作画監督・原案協力:新井陽次郎
原画・動画・作画管理:間崎渓
色彩設計:のぼりはるこ
音響監督:岩浪美和
制作 スタジオコロリド
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