『鹿の王 ユナと約束の旅』を映画館で見てきました。
すごく重厚な作品でしたね〜ファンタジーとはいえハードな世界観の作品。『ナウシカ』と『もののけ姫』を合わせたような感じ。いい意味でジブリっぽくて見やすいです。
しかも堤真一さん演じる『寡黙なおじさん』が主人公という意外性。悪く言えば『地味』なんですが見応えある作品でした。
予告編より画像引用(当ブログの画像引用について) Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
ただ、面白いんですが・・・原作小説が壮大ということもあって2時間で収めるのはハンデでしたかね。クライマックスの盛り上がりもあるんですが無難にまとめすぎというか、全体的に薄味感があるかなぁ。原作を尊重したのかもしれませんが、もう少し大胆な構成で見たい気もします。
映像も玄人好みなジブリ的作画アニメですが、決して古さは感じません。地味だけど見応えあります。ただ・・・それだけに宮崎駿さんや高畑勲さんの凄まじさが際立ってしまうという・・・なかなか評価が難しい作品でしたね。
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』予告
※重大なネタバレのないレビューですが、未見の方は念のためご注意ください。
苦手な異世界ファンタジーだったけど・・・
この作品はスタジオジブリ出身の2名によるダブル監督。安藤雅司さんは53歳。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』などに作画監督として参加。宮地昌幸さんは46歳。『千と千尋の神隠し』で監督助手をされていたとのこと。
でもなぜか予告篇やメディアでは安藤雅司さんの方をフューチャーしますね。最初は一人監督かと思ってました。それだけネームバリューがあるってことなんでしょうか。
インタビュー記事を読むと安藤さんは、初めは作画監督として呼ばれたんだけど、口を出すうちにじゃあ監督にという話で進んだらしいです。そういうこともあるんですね。
原作小説は今回の映画で初めて知りました。上下巻(文庫は4巻)くらいの分量みたいですね。異世界の中世風ファンタジーというジャンルは正直自分は苦手で・・・予告編みてもピンときませんでした。
重厚さが伝わるポスター でもピンクの少女が主人公だと思ってた。 Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
ポスター見て『少女の成長物語』かなぁって思ったんですよね。その割には少女のユナは全然可愛くないし(汗)どういう作品なんだろうって。まあ見る前の印象は『地味!』の一言。
ただこういう本格的なファンタジーを映画でやる気概は買いたいですよね。よほど原作が素晴らしいのか、スタッフにも重鎮級の人が多数参加していると話題だったので一度は見てみようって感じでした。
いざみたら・・・主人公オジさん!
鑑賞してまずビックリしたのは主人公が少女ユナじゃなかったこと(笑)結構中盤近くまで『ユナが成長して活躍する前振り』なんだろうなぁ・・・て思いながら見てました。
実はこのヴァンという中年おじさんが主人公だったわけですが、まあこれを前面に出したら売れなさそうだなぁ・・・という思いと同時に、おじさん世代としては『悪くないなぁ』という思いもあります。
なんとこのオジさんが主人公だった! Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
ジブリ作品に限った話じゃないけど、こういう作品って『少年少女が主人公』が定番じゃないですか。もちろん変化球的な作品でおじさんが主人公のファンタジーはありますが(転生モノとかね)こういうド直球的な作品でおじさん主人公ってなんか楽しいなぁと。
俳優の堤真一さんが声を当ててるんですがアニメ声優は初挑戦なんですね〜結構意外かも。さすが演技は上手かったと思います。ただ、完全に地の堤真一さんの声ですね(笑)あのお顔とオーバラップしてしまいます。
個人的に堤真一さんといえば、重厚な中にコメディーっぽさを持ってるイメージの俳優さんなので、堅物な主人公のイメージとちょっとバッティングするところはありますね。でも逆に型通りの堅物にならないようにあえて使ったのかなぁ。
重厚な世界観が魅力
作品自体は非常に重厚な世界観。これは魅力的でしたね。奇をてらうことなく、かといってありがちな異世界ファンタジーでもなく。
大国に飲み込まれるしかない小国の苦悩。表向き従属しながらも主導権を取り戻そうとする一派と、多くの犠牲も厭わず抵抗する一派。大国側でも様々な思いの人々がいて、庶民も指導者も様々な立場や思いが交錯する。そこに恐るべき伝染病の秘密が・・・。
少し『オネアミスの翼』を思い出す衣装デザイン Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
奇しくも現在の世界情勢を強く感じさせます。これがコロナ禍を意識してならちょっと興ざめなんだけど完全に偶然なんですよね。
普段はこういうファンタジー系は苦手ですが、政治的・社会的な描写がおもしろく没入できる設定でした。竜や魔法陣が出てこないのも良かったのかな?乗り物などもナウシカを彷彿とさせるようなデザインで好みでしたね。
とはいえ・・・単語がわかりにくい
ただ、見ててちょっと混乱するところが多かったかなぁ。その原因はたぶん単語がわかりにくいから。音的に難解なんですよね〜たぶん小説だと大丈夫だと思うんですよ。でも音だけで聞くとイメージが湧きにくい。
たとえば・・・
- 飛鹿(ピュイカ)ヤックルみたいな鹿の種類名
- 黒狼熱(ミッツァル)謎の伝染病の名前
- 東乎瑠(ツオル)小国の国名
- アカファ 大国の国名。漢字表記はない。
・・・とか、どうですか?漢字表記だと全然問題ないんですけどね。ムチャクチャ中二病っぽくていいんだけど(笑)あと、アカファが漢字がないのも文化的違いを表しているような気がして興味深かったりします。その辺も小説ならではの楽しみな気がしますね。
あと、登場人物がどちら側の人間なのかよくわからないってのもありました。最初は額にマークがあるのがツオルの民なのかなぁと思ったのですが、そうでもないみたいで?その辺は今でも混乱してます。そもそも主人公のヴァンはツオルの兵なのかアカファの兵だったのか・・・最後まで混乱してました(汗)
それがわからなくてもテーマは伝わってくるので良いんですけどね。でも見る前に公式サイトの関係図を一読したからの方がいいかもしれません。
原作の魅力ゆえの難しさ
テーマで言えば、この映画ではヴァンとユナが親子になっていく所に重点が置かれていて、それはうまい構成の仕方だなぁと思います。最初は可愛く見えなかったユナですが、だんだんお父さん目線になってしまい可愛い娘みたいな気持ちになってきます。
ただ、この原作っていうのはそれに加えて、世界観や群像劇としての魅力もあるような気がするんですよね。特にこの世界観設定はもうこれだけでご飯何杯もいけそうなくらい魅力的。この2時間では全部入れるのは不可能なわけで、その辺は難しいですね。
すごく魅力的な設定をイメージさせる風景 Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
上手にその魅力を組み込んでいるんだけど、それだけにもっと深掘りしてほしい感じがして全体に薄味に感じてしまったのかも。
作画も凄いだけに比べてしまう・・・あの人
映像も前評判の通り見応えあります。これだけの規模で本格的な作画アニメを見られるのはそうはないです。動物の動きなんかはさすがという感じがしました。みていてもショボいなぁとか、不自然だなぁみたいなところは全然なかったんですよね。
動物だけでなくこの矢のシーンなども見応えある動き Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
ただ、これをいったら贅沢なんですが、あまりにも自然なので、スゴイこだわった外連味みたいのが薄かったかなぁ。自分が見る目がないって言われればそれまでなんですが。
もう少し素人にもわかりやすい派手さがねぇ・・・その辺が宮崎駿さんや高畑勲さんの作品にはある気がするんですよね。なんというか動きの快楽という感じというか。良くも悪くも玄人好みな作品ですね。
あと、余計な心配だけど、序盤は暗いシーンが多くて、TV放映だとちょっと見にくそうなんですよね。家で見るときは気が散りそうで。決して退屈な作品じゃないんだけど、序盤で『よくわからん』って切られちゃわないか心配です。
いい作品なんだけど・・・もっと、を求めてしまう
長い作品の割に飽きずに楽しめたのは確かです。ただ、娯楽性という意味では少し淡白に感じるんですよね。
最初は可愛く感じなかったユナ。 でも時間とともにお父さん気分で可愛く見えてくる不思議 ヴァンとシンクロさせる演出ならスゴイ! Ⓒ2021「鹿の王」製作委員会 |
あのラストシーンも長編小説としては感慨深くなりそうですが、絵にしちゃうと難しいですね〜。
Twitterで誰か言ってましたが細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』を連想しますよね(笑)あちらは何とも言えない感慨を感じましたが、この作品だとちょっと笑っちゃったんですよね。すこし唐突感があったからかなぁ。
こういうこと考えちゃダメなんですが、宮崎駿さんだったらどんな作品にしてたらだろう・・・ってつい考えてしまいます。まあそもそも受けなさそうだけど、彼の異様なまでの貪欲さを皮肉にもこの作品を見て感じてしまいました。
まあ、いろいろ不満を書いてしまいましたが、基本的には面白いし質の良い作品です。多分日テレ系列で放映するんでしょうね。ただ、ご覧になるときは部屋を暗くして集中できる鑑賞で見て欲しいですね。
外部リンク 「ジブリっぽいと言われるのは気にしない」53歳の監督デビュー・安藤雅司の挑戦:週プレNews/安藤監督へのインタビューです。
外部リンク 『鹿の王 ユナと約束の旅』に存在する“弱点”と“収穫” 『もののけ姫』との違いは?:Realsound(小野寺系)/こちらは自分の感想とかなり近いですね。
外部リンク 『鹿の王 ユナと約束の旅』はアニメ史に残る一作に 息を呑むほどの動物表現に注目:Realsound(井中カエル)/作画に注目したポジティブ系レビューです。
『鹿の王』公式サイト:https://shikanoou-movie.jp/
こんにちは!ご無沙汰してます。
返信削除『鹿の王 ユナと約束の旅』をやっと観ることが出来ました。
上橋菜穂子さんの原作なので期待しました。思った通り良かったです。
パンデミックの最中、製作・公開されたのが天啓・奇跡の様に思えてなりません。
上橋さんが描いた、文化と医療、ウイルスと免疫、生態系の話などを
エッセンス的に映画の細部までちりばめられていたと私は感じました。
この地球上のすべてのものは関係しあっていると。
この物語の中にさまざまな勢力が各々の思惑があり、謎の病「ミッツァル」を
どう認識し行動してるかを見ていると、今現在の日本における、「COIVD-19感染症」
の混乱を投影しているかのようです。予見していたかのように。否人類の歴史から見れば
普遍的なのかもしれませんね。
「病には原因がある」と医薬師ホッサの真理を探究する姿に心打たれました。
今現在のただ感染症を恐れているだけじゃだめと思います。
この二年近くの間、ウイルスや感染症などの本をたくさん読みました。
そのなかで、人類の進化にウイルスは大いに関係してることも知りました。
正しく知る、SNSのファクト情報に惑わされない。これが大事ですね。
そして、この二年近くの時世のながれを振り返りながら食い入るように見てました。
それでは失礼いたします。
Hidebow-Rainbo-Frawbow さんコメントありがとうございます。
削除コロナ禍以前に制作された作品ということでまさに奇跡的でしたね。
2回の公開延期もあったとのことで作品自体もかなりの苦難だったと思います。
図らずも時代を反映した作品として記憶されるのだと思います。
疫病から戦乱に・・・っていう時代の流れすら反映されているのも不気味なくらいですが。
ただ地味な作品ということもあって上映当時からかなり注目度が低かったですね。まだ公開から半年あまりなのに、ずっと昔の作品のような気がしていました。
日テレ系列の製作なのでもしかしたら地上波でもやるかもしれませんが、どう評価されるのか・・・ファスト映画の時代にはなかなか厳しいかもなぁと思いますね。
ブログ読んできただきありがとうございました!