『アニソンオーディオフェス 2021』に参加しました。自作スピーカー9作品を全レビュー!

2021/12/31

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  今年もカノン5Dさん主催の自作オーディオイベント『アニソンオーディオフェス 2021』に参加してきました!

午前の部の3作品

 今年は新規出品者3名を含めた9名の出品者。関東以外にも北海道・甲信越・東北・中部など遠方からの出品もあり規模の広がりを感じますね。

アニソン縛り以外のレギュレーションは(ほぼ)自由なこのイベント。非常にバラエティーに富んだ作品が集まりました。

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午後の部の作品(一部)

目次(リンク付き)


当日の模様:和やかな盛り上がり!

 当日は好天にも恵まれ過ごしやすい1日。昨年のような自粛モードではありませんが、消毒やマスク、換気などの感染対策はキチンとされていました。

場所は昨年と同じく東京・東小金井のマロンホール。
今年もAqoursの手洗いポスターが活躍

 今回は個人的に作品製作が遅れに遅れて、前日の夜まで調整していたため寝不足気味・・・初めて当日に作品を持参しての参加です。本来ですと1週間前には資料提出など準備が必要ですがご迷惑をおかけいたしました。

広い部屋に間隔をあけての座席
試聴のみの参加者さんも来場して盛り上がりました

 出品者以外にも試聴参加者の方もいらっしゃって和やかな雰囲気。主催者のカノン5Dさんが名札を作ってくださったので、気軽に話ができる雰囲気になり助かります。

 作品は小さい順に20分のプレゼン&試聴タイム。遠方で来れない出品者さんはカノン5Dさんがプレゼンを行ってくれるのもこのイベントの特徴です。

 それでは順番に作品を見ていきましょう!(個人の感想なので勝手な事を放言してスミマセン!事実誤認などありましたらご指摘ください)


サウンドスローライフさん 「卓上の快楽」

・高級5cmユニットのコンパクトなダブルバスレフ

ツートンカラーとハンドル付きが可愛らしいデザイン

 最初は北海道在住のサウンドスローライフさんの作品。スキャンスピーク製5cmユニットを使った超小型ダブルバスレフです。

 小さなハンドルが付いたボックスに赤と黒のツートンカラーが可愛らしいデザイン。桐材を使用しているので非常に軽量です。

 小さいので一見普通のバスレフに見えますが、内部にもダクトを持つダブルバスレフ構造。ダクト周波数はわかりませんが、設計図を見る限りはそれほど欲張った設計にはなっていないようです。

 むしろ二重のダクトにより小型バスレフで悩ましい『ポートからの中高音の漏れ』をフィルターする効果も大きいのかもしれません。

 そしてもう一つの特徴は採用されたユニット。デンマークのScan-Speak社製 『5F8422T01』です。こちらは2013年のStereo誌の付録ユニットである『5F/8422T03』の一般販売バージョンですが、その価格はペアで2万円近く!5cmフルレンジとしてはかなりの高級ユニットです。

 実は付録版の方は自分も持っているのですが、高音の特性にかなり癖のある感じで使いどころが難しいなぁ・・・と思っていたところでした。特性図を見る限りは基本的な特性は似ているように見えますが、ハイエンド小径ユニットとしてブラッシュアップされた本機はどういう音になるか楽しみです。

 とはいえ、卓上スピーカーとして製作された作品ですので、あの広い会場ではさすがに力不足じゃないかなぁ・・・という心配も。さてどうだったでしょうか?

作品資料pdf設計図1設計図2(Audifillより)


【試聴してみて】

 これが意外なくらいバランス良く鳴って驚きました。もちろん上も下も伸ばしているわけじゃないんですが、適切なレンジ感で不足を感じません。

これはハイ上がりを避けて中音を重視したユニットの特性もあるのでしょうが、それをうまく活かした作例と言えますね。これだけの音量で鳴らしながら音が破綻しないのはすごいなぁと感心しました。

 もちろんエンクロージャーの方も変なビビリ音などもなく大音量でも安定しており丁寧な工作技術を感じます。

 実は本番前のテスト時にスピーカーのそばで聴いたのですが、弦楽器のディテールがしっかり聞こえてさらに印象が良かったですね。「卓上の快楽」と名付けたくなる気持ちがわかりました。

 離れて聴くと流石に音のディテールは丸くなりますが痩せた感じにならず聴きやすいバランスでした。響きやすいライブな環境も良い影響になっていたかもしれません。クセのない女性ボーカルの声は魅力的。大きさに比して低音もよく出ていたと感じますね。

 小型スピーカーの一つのあり方として欲張らずにバランスで勝負する成功例だと感じました。


幻魚白蝦蛍烏賊さん 「黒螺旋2」

・3.2m逆ホーン内蔵。軟質素材の小型密閉。

らせん状の中央は実はもう一つらせん状の構造が隠されている。

 一見してインパクトのすごい作品。でも決してインパクト勝負の作品ではありません。

 TPUという軟質素材を使って3Dプリンタで出力した作品ですが、なんとこの小ささで3.2mもの長大な逆ホーンを内蔵しています。らせんの中にもう一つらせん構造を組み込んだ見た目以上に驚きの作品です。

 3Dプリンターでの造形物もここ数年は一般的になってきましたが、ここまで見事なものというのはかなりの職人技が必要です。作者さんはTwitterでも3Dプリント技術の研鑽を発表しておられ、最近では軟質素材を使ったプリントの研究をされていました。この作品も多くの試行錯誤の結晶といえるでしょう。

また、幻魚白蝦蛍烏賊さんは昨年のStereo誌コンテストで、やはり軟質素材のタマゴ型3Dプリンタ作品で2次選考を通過し見事本選出場を果たしました。

 その時は私も1次選考の通過者だったので気になる存在だったのですが、まさかアニソンオーディオフェスでご一緒できるとは。しかもてっきり昨年のコンテスト作品を出品するのかと思いきや新作での登場です。

 この作品は、今年のStereo誌コンテスト応募作からユニットを変えたバリエーションで、使用ユニットは2020年のStereo誌付録マークオーディオ製のOM-MF4。作者の狙いは軟質素材を活かしてエンクロージャーの共振を低減した理想的な密閉型スピーカーのようです。

 また丸みのある形状からも反射の影響を抑えたキレイな高音を期待したいところです。

作品資料pdf (Audifillより)

【試聴してみて】

表面もキレイにプリント。
ウェーブガイド状のカバーも美しい

 まず非常に透き通った音が印象的。音場感も素晴らしいですね。1曲目の『ゆるきゃん』ではパーカッションの自然さに驚きます。

 低音は決して『量感たっぷり』というわけではないのですが不足感はありません。自然に伸びる密閉型らしい低音。でも小型密閉にありがちな詰まった感じや、空気バネによるクセは感じませんでした。

 このOMMF4自体が小口径の割に低音も出やすいユニットではありますが、それにしても小型密閉でこのバランスは良好です。

 ボーカルは雑味なく焦点がピッタリ合っている感じ。高音の伸びの気持ち良さOMMF4の金属コーンの魅力ですね。ライブな環境なので若干明るさが強調されますが一般の部屋なら気にならないと思います。

  この雑味の少ない音はやはり共振が少ないせいでしょうか。素材の柔らかさで、少なくとも高音の共振を減らしている気はします。共振したとしても比較的低域になることで本ユニットの特徴である美しい高音を活かした作品になっているのかもしれません。

 また逆ホーンの効果については諸説ありますが、本作の場合は気柱共鳴による変なクセは感じませんでした。内容量はわからないのですが小型密閉で問題になる空気バネも長大な逆ホーンで低減できているのかもしれません。あるいは、軟質素材のため空気圧をある程度吸収してしまうとか・・・?

 色々想像してしまいますね。柔らかさも実際に押してみたかったのですが、流石に力を入れて押す勇気がありませんでした(笑)

 ただ移動のため持ったらびっくりするほどの重量感!3Dプリントの作品は中空なので軽いイメージでしたので驚きました。作者さんによると底面に片側2kgの鉄塊を入れているとの事。このような制振対策も澄んだ音に一役買っているのかもしれません。

kato19 「コンビネーション・ケルトン」

・4cmフルレンジホーン+パッシブラジエーター付きケルトンウーハー
表面は合皮貼りとペイントの組み合わせ。
9cmウーハーは内部にあり外からは見えません

 3作目は私、kato19です。1、2作品目のプレゼンはカノン5Dさんなので、一般参加者としては実質的にトップバッター。相変わらずひどく緊張してしまいました(汗)

 今作は4cmの小径フルレンジをホーンドライバとして使用。低域をケルトン式のサブウーハーで補う2Wayの形式になります。ケルトン式というのは内部にウーハーユニットを置きバスレフダクトの間接音のみを利用するタイプのウーハーです。

 今回はダクトの他に通常は密閉にする第一空気室に自作のパッシブラジエーター2基を装着して2つの低域をコントロールしています。

 そして4cmのユニットはPeerlessのアルミコーンタイプ。もともと出ない低域はフィルターして不要振幅を減らし大音量にも耐えるようにしています。

 フルレンジホーンパッシブラジエーターも以前このイベントで発表しましたが、今回はある意味で総決算。自分が面白いと思う形式が詰まってます。

 実は同じくフルレンジ+ケルトンウーハーの形式で大型作品をStereo誌コンテストに投稿したのですが、今作は同じ形式ながら対照的な小型作品にこだわって製作してみました

 さてどんな評価をいただけたか・・・。


作品資料pdf (Audifillより)

【試聴してみて】

壁に近いと低域が乱れたのでセッティングは離しめにしました。
4cmで後ろの席まで音が届けられて嬉しいです。

 事前テストの際はまずまず破綻なく音出しできて一安心でした。実際の発表では自分はちゃんと聴けないので会場の感想を一部抜粋して紹介します。(〜は中略)

・Hさん:『ボーカルはきれい。〜うまくまとまっていると思います。』
・匿名様:『ホーン癖はきにならなかった、むしろ奥行き感が豊かで愉しく聴けました〜ただ総じて、ソースは選びそうな気がしました。』
・Xさん:『低音の厚みが凄かったです〜男性ボーカルでも癖などは感じず、自然な音でした。』
・Tさん:『低音もしっかり出ていて迫力を感じ、聴き疲れしない』
・匿名様:『口径が小さいサブウーファーですが、下まで低音が出ていて凄いですね。』
・Kさん:『驚異的な低音表現&癖のないホーンサウンドで〜驚かされました。』
・Aさん:『女性ボーカルも男性ボーカルも聞きやすかったです。』

 概ねボーカルに高評価をいただきました。ボーカルはホーンのクセが出やすいところだったのでホッとしています。低音も小さい箱とのギャップに驚いていただけて嬉しい限り。

また外観についても大変褒めていただけて嬉しかったです。合皮貼り付けによる仕上げで素材感が好評でした。

 私の試聴曲は下記の楽曲でした。(主催者よりJASRAC許諾申請済)大音量でながせて嬉しかったです!

・「Tiny Stars」ラブライブ!スーパースター! 第3話挿入歌
・劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト 劇中歌より
  ・「wi(l)d-screen baroque
  ・「MEDAL SUZDAL PANIC
・「労働者のバラッド」臨死!! 江古田ちゃん」ED曲・第8話
・「- Across the line -」小鳥遊六花・改~劇場版 中二病でも恋がしたい!より

※製作レポート記事は後ほどアップの予定です。

赤さん 「秋津竹」

・竹材を使ったテーパー形状の後面開放スピーカー
中央部は漆喰で埋めて接続
吸音材は接続部に少量埋め込んでいる

 例年、植木鉢を利用した作品を出品している赤さん。今年は竹製の植木鉢カバーを使った作例です。この良い感じに並行面のないテーパー形状は自分で作ろうとするとかなり大変。また竹材というのも扱いが難しく面白い選択ですね。

 二つの植木鉢カバーを底面で対になるよう合わせた形状ホーン状の後面開放式となっています。
ご本人はカンで作ったと仰っていましたが、後面開放で抜けのいい音を狙いつつ、並行面をもたない形状で菅共鳴を低減するというイメージでしょうか。

 とはいえ竹材の加工はかなり大変だったとのこと。非常に硬いので通常の木材のようには穴あけができなかったそうです。

 ユニットは今年のStereo誌の付録。オンキヨーのOM-OF101。ご本人は響きの強い会場でのテストでもう少し対策すればよかったと残念がっていましたが・・・さてどうだったでしょうか。

作品資料pdf (Audifillより)

【試聴してみて】

当日は吸音材を立てかけて響きを調整

 後面開放らしい解放的な音。低音は量感こそありませんが不足感のないバランス。ライブな環境なのでボーカルには結構響きが付きますが、器楽曲では壮麗な感じの演出になりますね。特に弦のピチカートなどは好感が持てます。虫の音などの自然音も良かったですね。

 当日はカノン5Dさんの大型の吸音材を立てかけて響きを低減させていました。この効果はかなり高かったですね。自宅での試聴では小音量&デッドな環境なのでよりバランス良くなるのだと思います。

 個人的には開口部にもっと吸音材を入れて共鳴を抑えたらどうなっただろうとか、思い切って形を活かしたダブルバスレフ にするとどうだろう・・・とか色々と想像が広がる作品でした。

 コンテストではないので実験的な試みインスピレーションによる作品は素晴らしいと思います。想像では色々考えても、実際に形にして音を聴いてみる機会というのは限られるので色々と刺激になります。

χ'tさん 「バグホン」

・10cmフロントホーン+ホーンツイーターのフルホーン2Way

石膏像のような重量感のある外観。
白い着色仕上げで統一感がある

 フルレンジホーン+ツイーターの構成は自分も以前の作品で出品したことがあるので興味津々です。10cm部はStereo誌の付録オンキヨーのOM-OF101をウーハー的に使用。前部がホーンで後部がバスレフの構造です。

  目を引く白いホーンはスタイロフォーム(ポリスチレン樹脂の硬質断熱材)をベースに、表面を石塑粘土で整形されています。触った感じもしっかりとした硬さでした。

 ツイーターはbeyma CP-09 手頃な値段で比較的低い周波数から使えるホーンツイーターのようです。

  10cmでホーン付きだとドカン!とインパクトのある高能率な音が期待できますね。でも深いホーンはクセが出やすいのが怖いところ。ユニット後ろ付けで振動板ギリギリにホーンに接続しているのは好感が持てます・・・さてどんな音でしょうか。

作品資料pdf(Audifillより) /ブログ(note) 


【試聴してみて】

ツイーターはFostexのアッテネーターで調整
10cmはローパスフィルターが挿入されている

 予想以上にクセがなく張りのある伸び伸びとした音。ボーカルにも歪みも感じず聴きやすいです。低音は量感こそほどほどですが不足感のないバランス。ホーンの圧を感じながらも聴きやすい音に仕上がっていました。

 資料には『丸い優しい音』と書いてありましたが、当日は響きやすい会場のせいか、やや高音寄りの印象。ツイーターのキャラクターが強めに出ていたような気がしますね。

 逆にいうと高音をツイーターに任せているので、10cmホーンのクセは排除できているのかもしれませんね。想像ですが。だとしたらネットワークの活用の仕方がうまいですね。

  低音はほどほどの量感ですがもっと出そうなイメージもあります。構造上バスレフポートが制限されるせいでしょうか。調整でさらによくなるポテンシャルを感じますね。

 χ'tさんは音質の方向性スピーカーの好みなどで共感できるところが多いです。ホーン製作の苦労をお聞きした時もすごく共感が多く楽しかったです。

FE203さん 「DTSL-101 YANMA」

・2本の共鳴管で低域補正を狙うトールボーイ型
上下にスリット状の開口部を持つ
かなり背の高いトールボーイ型

 OM-OF101の作例が続きますが、最後はFE203さんの2連共鳴菅のトールボーイFE203さんといえば『共鳴菅』の作例が多いのですが、単に作るだけでなく共鳴菅の欠点を改良するチャレンジを続けています。

 今回は2つのユニットを使い2本の共鳴菅を一つの筐体に収めフラットな低域を目指した作品。

 共鳴菅スピーカーはユニット背面の音を1〜3m程度の菅で共鳴させて低音を補完する方式です。この形式は非常に効率的に低音が得られる反面、気柱共鳴の関係でピークやディップの凹凸を生じさせます。その凸凹を補完するため別の長さで調整した共鳴菅と合わせてフラットにするという狙い。

 構造だけでなく見た目もとても美しいツートンカラーの塗装。元々はStereo誌のコンテスト応募用に製作していたとのことですが、完成後にサイズオーバーに気づき泣く泣く応募を断念したという作品です。

作品資料pdf (Audifillより)


【試聴してみて】

バッフルステップ補正回路も同梱されていましたが、当日は壁寄せでバランスを取れたのでストレート接続で発表。


 10cm2本はさすがに厚みのある音。量感のある低音で圧倒しますが共鳴菅のクセはほとんど感じません。低音に変な強調感がなく自然につながっている感じですね。

 二重共鳴菅の効果も絶大だと思いますが、開口部を狭めて中高音を抑えているのもクセの低減に効いているのではないでしょうか。

 ユニットを上下2つにすると高音が落ちるかな?と心配しましたが、聴いていてそれは感じませんでした。女性ボーカルに若干歪みを感じる時がありましたがこれは会場の影響かもしれません。

 米津玄師の『海獣の子供』では圧のある楽曲がこのスピーカーに合ってましたね。FE203さんの選曲は自分の好みと重なってるので毎年楽しみです。ちなみに休憩時間ではこの作品の内部構造をもっと知りたいという声が多く聞かれました。(※下記追記)

 この作品の完成度ならStereo誌のコンテストも本戦出場間違いなしというレベル。悔しいところですね。

※FE203さんが内部構造をTwitterで解説してくれました!単なる2本の共鳴菅ではなく、多数の消音菅が組み込まれています。予想以上に複雑な構造にビックリですね。

タニヒロさん 「げんこつポリカバッフル 2021」

・独自構造でバランス良く鳴らす後面開放型
曲面になったバッフルをユニットで支える構造。
アルミ柱は片側のみ装着し左右非対称な曲線具合に調整している
 昨年はキャンバス布地を使った同形式の後面開放型スピーカーを出品していたタニヒロさん。今年はある意味本命の作品を携えて直接参加です!

 作品名の『ゲンコツ』というのはナショナル(今のPanasonic)が1950年代から80年代まで販売していたフルレンジユニットシリーズの愛称。真ん中のフェイズプラグがゲンコツの形に見えることからこう呼ばれましたが、国産ユニットの名機として大変人気のある製品です。

 今回、このゲンコツをユニット単体で鳴らした時のような伸びやかな音で、かつバランスの良いスピーカーを目指した作品。タニヒロさんはこの形式を多数製作して研究を続けています。

 一見すると平面バッフルに似ていますが、構造的にはかなり違いがあります。詳しくは資料をお読みいただきたいのですが、通常は硬いバッフルにガッチリ固定されるユニットが、逆にバッフルを振動させる構造になっています。

 バッフルは独特の非対称な曲線状になっていますが、これは固有振動を解消するためのもの。いわば共振を上手にいなしてピークを作らないようにしているようです。平面バッフルではバッフルの共振が悩みのタネですが、本作は逆の発想で解消を狙います。
前面バッフルに開けられた穴。
振動板前面の直接音はこの穴から放出される。
 また、写真だとわかりにくいですが、実際に見て理解したのはユニット前面のコーンとポリカバッフルの間はウレタンスポンジを挟んで密封されており、ユニット前面の音は開けられた小穴からのみ直接音を発するということです。

 昨年の作品も見た目に反して良好なバランスでしたが今回はどんな音を聴かせてくれるでしょうか。

作品資料pdf (Audifillより)


【試聴してみて】

上下の曲げ部分も専用治具で加工しているとのこと
 見た目からは想像もつかないようなバランスの良さ。軽やかで伸び伸びとした音はまさに解放的な音です。それでいて中低音までバランス良く聞こえるのですから驚きです。

 この見た目のイメージに反して(と言っては失礼ですが)変な歪みやピーク感を感じないのはすごい。もちろんフルレンジ独特の歪み感あるかもしれませんが不快なものではありません。このユニットの個性がそのまま出ているような感じがします。

 特にピアノの響きは伸びやかで音場感が気持ちいいですね。ボーカルも歯切れよく変な付帯音はほとんど感じませんでした。

 驚いたのは男性バンドの迫力ベースやドラムがバランス良く鳴っているのは本当に不思議なくらいです。また音場感が非常に優れているのでSE的な音も自然に広がります。

 もちろん低音の量感がすごいと言うわけではないのですが無理なく『ちょうどいいバランス』という感じですね。

 最初はポリカバッフルが振動して低音を増強しているのかな?と思ったのですがそういう音ともちょっと違う気がします。これは共振を分散させることでピークを減らす役割が大きい気がしますね。

 この方式で中低音がどうして厚いのか?16cmとはいえこの程度のバッフル面積ではもっと低音が抜けた音になる気がします。
 その仕組みを自分なりに考えてみたのですが、前後の音の量を変化させることで擬似的に2Wayにしているのではないか?という想像をしました。

 つまり、ユニット前面を塞ぐことで前面からの音を減らし、開放された背面の中低音をキャンセルすることなく回り込ませる。背面の高音は減衰するので、前面に開けた小穴からの高音の直接音で補う・・・という感じでトータルのバランスが取られているのではないでしょうか?(あくまで思いつきの推測なので異論反論大歓迎です)
自分のイメージする音の仕組み(想像です)
 いずれにせよとても面白い作例なので、多くの人にお聴きいただきたいですね。次回も参加したいと表明されていたので楽しみです。

PamaZoniks(パゾ)さん「試験薬PZ③号機 TS.Ver」


・変形をテーマにした3Way4スピーカーの大型システム
第一形態のセッティング。
置いてみると意外とコンパクトに感じました。
 雪の中、石川県から東京までスピーカー持参で直接参加されたパゾさん。自分と同じように直前まで製作・調整している様子をTwitterで拝見していました。

 作品は3つのボックスを組み合わせる大掛かりな3way4スピーカーシステム(あるいは4wayシステム)です。テーマは『変形』との事で組み替えを前提にした設計です。

 最初にすごい物量の外付けネットワークに圧倒されます。なんとパゾさんは自作スピーカーを完成させるのは今回が初めてとの事。1,2号機は失敗により完成に至らず今作が初完成。

 そうとは思えない大作ですよね。確かに最初は誰しも大物に憧れますがイキナリこの規模はスゴイ・・・。
これで片側分のネットワーク!ど迫力です。

 でもすごいのはネットワークだけではありません。ウーハーは密閉型とバスレフ型のダブルウーハー、ツイーターも自作ウエーブガイドを組み込んだりなど随所にこだわりがあります。

 箱も一見シンプルに見えますが独自に種類の違う板を張り合わせたもので、MDF材に至っては密度を変化させる処理をして使用しているとの事!ここまで来ると想像を超えますね。

 今回はネットワークの付け替えも含め組み替えながら披露との事。プレゼンすら型破りで楽しみです。

作品資料pdf (Audifillより)


【試聴してみて】

こちらは別形態での演奏
 全部で6〜7形態に変化させての視聴。一曲ごとに形やネットワーク設定を組み替えていきます。最初はオーソドックスに縦型ですが、写真で見た印象より意外とコンパクトに見えますね。

 最初の設定ではウーハーが床に近いせいか少し低音がブーミーに聞こえましたが、2曲目の設定では低音がすっきりして聞こえるなど設定による効果を興味深く聴けました。総じてボーカルのキレイさが印象的ですね。

 駆け足ではあるものの様々な形態を聴き比べる事で意外な違いを感じることができて面白いです。最後は全て一体にしたワンボックスタイプに!PA的な迫力と元気の良さ。自作の自由さを感じる作品でした。
集中させて1ボックスタイプの最終形態
 今回は実験的な要素も多かったですが、スタンドに載せたセッティングでじっくり聞いてみたい気もします。難しい3way(4way?)ですが物量だけでなくかなりのポテンシャルを感じました。プレゼン中もトラブルに見舞われるなど大変そうでしたが非常に面白かったです

zukinkunさん 「FOSTEX GX100 改造」

・GX100ベースにツイーター交換とオリジナルネットワークで新たな音に
昨年に比べてかなり小型の10cmウーハーの機種
右が外付けネットワーク

 zukinkunさんは昨年も市販品を流用した作品を出品していましたが、今年は破損したFOSTEX GX100をベースにツイーター&ネットワーク交換でこだわりのチューニングを披露してくれました。

 GX100自体は幅16cm高さ22cmとかなりの小型スピーカー。10cmウーハーはFostex独特のHR形状アルミ合金振動板。ツイーターは元のマグネシウムドームからMB Quartチタンドームに変更ですが導入できるサイズを探すだけで大変ですね。

 そして注目は外付けのネットワーク。新しいユニットに合わせて一から設計し、フィルムコンデンサや銅箔テープで最終的な味を整える完成度の高さ。どんな音を聴かせてくれるか楽しみです。

作品資料pdf (Audifillより)

【試聴してみて】

ネットワークを上に乗せた状態で試聴

 これはかなり好みの音でしたね〜ボーカルに熱量を感じるような聴いていて楽しい音です。小さい見た目から意外なくらいの迫力。ライブな環境の影響もありますが華やかさも感じます。それでいて変に強調されている感じもなく上から下まで繋がりの良さを感じました。

 GX100自体を試聴したわけではないので比較はできませんが、レビューなどを読むと『モニター調』とか『硬めの高域』などの評価ですね。

 今作ではツイーターのキャラクターの違いか、かなり方向性が違う気がします。個人的にはFostexに期待するような音質はこっちかなぁという気もしますね。これなら普通に使いたいと思う人も多いのではないでしょうか。

 市販品の改造というと簡単に感じる人もいるかもしれませんが、本作はエンクロージャーとウーハー以外は全て変えており実質的には自作品です。木工的な工作は好きじゃないけどスピーカー製作に興味がある人にはこういった方法も楽しいかもしれないですね。

カノン5D 「SOLA Mk2」

・アルミ補強と独自ウーハー研究の集大成
12cmウーハーなのに前作6cmウーハー版と変わらないコンパクト感

 最後は主催者であるカノン5DさんのSOLA Mk2。最近カノン5Dさんが研究されていた『アルミによる筐体補強』と『ウーハー振動板の補強』の一つの集大成となる発表です。

 非常に完成度の高かった前作『Concept-SOLA』と外観こそ類似していますが全く別物ですね。前作はA&Cオーディオの6cmウーハーを使用していましたが、本作はSEASの12cmウーハーに補強部材を加えたオリジナルユニット

3Dプリンタ出力による補強材を加えた独自の振動板

 考え方としては前作と同様にコーンの釣鐘動を抑えてマッシヴな低音を目指したものだと思います。今回は完全にカノン5Dさんの解釈するマッシヴな低音となるわけでそこも注目点ですね。

 ツイーターはScan-Speak Illuminator D3004/602010に変更。なかなかの高級ユニットです。今回はウーハーユニットの特性変化に伴いクロスオーバー周波数をかなり下げ1.5kHzのLR4としたとの事。ツイーターの影響が強くなるだけにネットワーク調整は相当練り上げたようです。

 さらに目立つ点はフロントに開けられた小さなバスレフポート。前作はリアバスレフでしたが今回はフロントバスレフに変更。クロスオーバーが下げられたので中高音の漏れの影響も減ったためでしょうか。共振周波数は38Hzでかなり低めまでカバーできそうです。

 カノン5Dさんのここ数年の集大成となる本作。いったいどのような音を聴かせてくれるでしょうか。

作品資料pdf (Audifillより)

【試聴してみて】

 一聴してクリアな音が印象的ですね。そして低音は量感がありながら歯切れの良い音。しっかり下まで伸びているのにブーミーさを感じません。あの小さいバスレフポートもかなり効いているようで40Hz以下の最低域の圧を感じる音でした。

 中高音は前作とは印象が結構違いますね。当日はライブな環境なので華やかさが強めに聞こえるとはいえ、より透明感のある感じがします。クロスオーバーを下げてツイーター主導の音色になったという事でしょうか。

 とはいえ1kHz付近まではウーハーが担当しているわけで、あの形状の振動板からこの音が出るとはなんだか不思議な感じがしますね。見た目以上に軽量化など工夫がされているからでしょうか。

 自分のはるか先を歩いているカノン5Dさんですが、毎回参考になる知見をたくさん得られます。

 選曲も1曲目から思いが込められていて良いですね。選曲意図を資料に書くのは素晴らしい思います。自分も書きたかったけど今年は時間が・・・(泣)

 発表後のリクエストタイムに流された宇宙戦艦ヤマトは迫力がすごかったです。他にも意地悪なくらい(笑)強烈な低音のリクエスト曲があるなか、全く破綻のない音ですごい強度を感じました。

最後に:この貴重さは本当に得難い機会

 今回で4回目の参加ですが本当に楽しかったです。個人的にも今年のアニメ作品ベストの発表の場みたいになってますが(笑)

 やはり機材のレギュレーション(ほぼ)なしの良さもありますよね。コンテストで競うのも良いのですが、自由な発想での作品同士だと素直に学びの気持ちになれます。

 どんなスピーカーであっても完成させるのは大変なので一人で試行錯誤するのは限界があります。いろんな人がいろんな手法、いろんな部材を使って完成させた作品を実際に聴くことは本当に貴重な経験です。

 そしてなにより自作のスピーカーを『わかってる』人たちに聴いてもらえることの喜び・・・この貴重さは本当に得難い機会です。

 今年も参加させていただき本当にありがとうございました!

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自己紹介

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手の届く範囲で楽しんでいます。アニメ・自作スピーカー(長岡系)・オーディオ工作・Mac関係・・・などなど雑多ですがささやかな発表の場です。まどか☆マギカで目覚めて今は京アニ系ファン。40代既婚 自営 埼玉県在住 Hatena id:kato_19 ブクマ大歓迎 Twitter @id_kato_19です。詳細はブログの自己紹介エントリへ

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