『空の青さを知る人よ』予告編&MVより画像引用 (当ブログの画像引用について) Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
見る人ごとに色んな見え方がする作品だと思うんですよね。その人の持つ何かに共鳴させる力がある。だから、30代どころか40代の自分にも『自分に向けた映画だ』って思えるんだろうな。
もう自分には響きまくりで・・・でも、決して『おっさんを癒す作品』だと思って欲しくない!『言葉にならない想い』を伝えてくれる作品だと思うんです。
一滴のファンタジーを触媒として見えなかったものが鮮やかに浮かび上がってくる・・・これこそアニメーション映画の可能性だと思うんですよ。それを見事に成し遂げたと思う。
こんなに大人がまっすぐに感動できるアニメ映画が見られる事に幸せを感じずにはいられない。2019年のアニメ映画屈指の名作。秋の空気がよく似合う、本当に素晴らしい作品でした。
映画『空の青さを知る人よ』予告1
素晴らしい編集の予告編。映画館で見た時泣いてしまった。
ディレクターさんGJ!予告2も好き。
この作品は感動しすぎてしまって、どこから感想を書いていいのかわからなかったんですよね。だから、大きく3つの段階に分けて書きます。
第一に、やっぱりダイレクトに共感した慎之介のことを書きます。なんでこんなに感動してしまったのか。
第二に、この作品で一番深く描かれていると思う姉のあかねのこと。あかねは決して都合のよい癒しの存在じゃないってこと。
最後にラストシーンの考察。あのセリフに込められたあおいの想いが、見事にこの作品のテーマになっているという素晴らしさ。『空の青さ』に込められた意味について書きます。
※次項より若干ネタバレありのレビュー・考察となります。
※あくまで自分の解釈なのでご了承ください。セリフの記載は不正確なので、正しく覚えている方がいればご指摘いただけると嬉しいです!
心がざわつく慎之介の登場シーン
前半、慎之介のなんとも気まずい登場シーンから、もう、ビンビンに共感してしまうんですよ。自分はべつにバンドとかやってなかったですよ。同じ埼玉だけど秩父じゃないしね。そもそも東京に行ってないから境遇は全然違うんだけど。
でもやっぱり共感しちゃうんだよね。慎之介の気持ちに。自分だって昔の友達、まして昔の自分に、胸張って『成功したぞ』って・・・言えないから。安定して立派な役職についている友達見るとやっぱりちょっと眩しいもん。
慎之介の帰郷シーンの気まずい晒し者感 境遇は違うけどものすごい共感がある しかし二役の吉沢亮さんの演技が上手い! Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
でも自分の人生を『全否定』するほどでもない。そのくらいの思いはある。そんな感じの自分にとって、序盤の流れはもうなんか・・・心ががざわついて仕方なくなりました。
高校生の『しんの』に言い返す慎之介の気持ち・・・すごいわかる!お前に何がわかるって・・・そうなんだよ。実際にやってみないと分からないことばかり。成功・普通・失敗とか、頑張った・頑張らないって単純に割り切れるものじゃない。
そんなもの若いお前にはわからないだろうって思う。でも、それでも・・・やっぱり自分は高校生の『しんの』の気持ちもよくわかってしまう。
彼の姿を見てハッと気づく。自分でも忘れてたものを。ダセェ、ダセェ、ダセェって・・・・その通りなんだから。
だからあそこは飛ぶべきなんだ
だからクライマックスでしんのが飛んだ時、震えるほど泣いたんだ。本当に号泣してしまった。理由なんてわからない。とにかく涙が出て仕方なかった。
確かになぜ飛ぶのかよくわからないよ。ついていけないって人の意見もわかる。でも理屈じゃない勢いを表現するためには、あそこはやっぱり飛ぶべきなんだ。
それが違和感なくできるのがアニメなんだって・・・それをやってくれたこと、それら全てに感動したんだと思う。
理屈じゃない若さの表現 比喩じゃなくて肩を震わせて泣いてしまった Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
これはオッサンの感傷と思われても仕方ないけど、でも本当に震えたんだから仕方がない。言葉にならない色んな感覚が溢れてくる・・・完全にやられました。
もちろんあいみょんの歌のタイミングも最高だったよね。長井龍雪 監督はうまいね。歌詞とセリフも綿密なタイミングで重ねる素晴らしさ。本当に自分好みです。
正直言うとあいみょんの曲、見る前はそれほど響かないかな・・・って思ってたんですよね。でも劇中でサビが流れた瞬間ブァッ・・・って息ができなくなるくらい泣き崩れてしまった。
あいみょん –空の青さを知る人よ【movie ver.】
(公式フルバージョン)
(公式フルバージョン)
楽曲だけ、台詞だけ、ストーリーだけじゃない。この組み合わせだからこそ言葉にならない感動が生まれるんだと思う。
あかねは『待つ女』ではない
ここまで慎之介の事を書いていて何だけど、この作品で最も重要な人物っていうのは『あかね』だと思うんですよね。『空の青さを知る人よ』ってタイトルも、この作品が『あかね』が重要なキーになっていることを示唆していると思う。
様々な登場人物によって間接的に『あかね』という人物の複雑な心境を知っていく物語。自分はそう解釈しました。それはつまり『空の青さ』って何か?に繋がるんだと思うんです。
2019年ベストメガネにノミネートしたくなる秀逸なキャラデ でも可愛いだけの単純な人物ではない! Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
『井の中の蛙 大海を知らず されど空の青さを知る』言葉は有名だけど、この作品では『空の青さ』って単に地元LOVEって事にとどまらない。大海の広さと同じくらい、空は深く複雑な表情を見せる。そこにいるからこそ、その選択をしたからこそわかる事ってある。
あかねという人物だって、決して単純ではない。立派なお姉さんという評判も本当だけど彼女の一面でしかない。地元に縛り付けられ、昔の恋に囚われている・・・ってのも、それはある一面ではそう見えるかもしれないけど、それだけで彼女を語ることはできない。
あかね自身ですらうまく伝えられない・・・そんな言葉にできない想いを抱えて生きる。
あかねの表情が語るもの
あかねってこの作品で最も表情が豊かに描かれた人物だと思うんですよね。言葉以上に表情で多くを語らせている。
酔っ払った慎之介にかける「がっかりさせないで」の表情。役所の渡り廊下でみちんこに不快を伝える時の表情。あおいに進学を勧めて拒絶された時の表情・・・。
優しいだけじゃない色んな表情 吉岡里帆さんの演技も素晴らしい。 Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
そして圧巻なのは、あおいに「あか姉のようになりなくない!」と言われた時の表情・・・あの時あかねはキレて怒り出すでもなく、悲しんで泣き崩れるでもなかった。代わりに見せたあの表情。なんて言えばいいのか分からない、すべての感情が混ざったようなあの微妙な表情!
彼女は「私だって辛かったんだよ!自分も自由に生きたかったのに!』という怒りを我慢してたの?違うよね。そうじゃない。ただ自分の気持ちが伝わらない無力感。
確かに辛いこと悲しいこともあった。でもそれは自分で選んだつもりだし、やりがいもあるもの。縛り付けられてる、囚われてる、我慢してる・・ってそう思われるのは違う。
いろんな人があかねの一面を知っている。でも一面しか知らない。でもそれは一面では正しいのかもしれないけど、彼女の全てじゃない。
そうやっていろんな人の関わりによって見えてくるあかねの人物像。大変なこともあったけど、責任感だけでで頑張ってきたわけじゃない。あおいとの生活を大切にしたかったし、地元で生きる意味も知っていた。
彼女は自分の人生を生きている
だから、あかねが『挫折した男性を待つ理想の女性像』なはずがないんだよね。自分はそうは思わなかった。
恋愛も「いろいろあったよ」言われてあおいが驚いたように。彼女は自分の人生を生きている。慎之介のことだって「待ってた・・・のかなぁ』って・・・自分でもよくわからない。
でもさ、そんなもんだよね。10年以上前の恋にすがってるわけじゃない。でも忘れてるわけでもない。最も多感な時代の二人の約束。囚われているわけじゃないけど、でも心の片隅には残っている大切な記憶。
それが、再会して、再び音楽を奏でて、笑いあって、そして自分のことを好きでいてくれる・・・片隅にしまってあった記憶が一気に溢れてくる。
だからこそ、慎之介には負けたような気持ちで求婚してほしくない。こんな形で受け入れることは互いの想いを裏切る気がする。それがあの回答なんだと思う。
あかねの涙は拒絶した辛さだけじゃない 仕舞っていた色んな想いが溢れた涙だと思う Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
あかねは、みちんこに余計な気づかいされて怒ってたけど、でもそれが無かったら二人は再び交わることはなかったかもしれない。そういう意味ではみちんこはキューピット役。
ただ、それって本当はみちんこ自身が納得したかったからなんだよね。
そう言う意味では囚われているのは『みちんこ』自身ともいえるわけで・・・その息子であるツグがしんのに仁義を通すのを見ると、もしかしてみちんこも高校時代に本当はあかねに憧れていたのかも・・・って想像しちゃいますね。
ラストシーンの意味
そしてあのラストシーン。最後のライブが見たかった・・・っていう意見もわかる。自分も初見では、えっココで終わるの?って驚きがあった。
でもそれは不足感よりもスゴイ!っていう驚きが勝りました。まるで小説の最終ページのような余白のある終わり方。
一見すると唐突なラストシーンに見えるが・・・ Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
あおいの『泣いて・・・ないし!』のセリフ。なぜこのシーンをラストシーンに持ってきたのか。もちろんしんのとの別れなんだけど・・・もう一つの意味が込められていると思うんです。
あおいが知った空の青さ・・・
それはあおいが、本当の意味であか姉の気持ちを経験できたから。13年前のあかねがした選択。誤解していたあかねの想いを理解できたから。
あおいは高校生のしんのに恋をしたからこそ、当時のあか姉の葛藤が自分のものとして理解できた。あか姉という大切な人の幸せと、しんのという好きな人と一緒にいたいという相反する願い。
それを知ったから、自分のせいであか姉の恋を引き裂いたという罪悪感がは一層強くなったのかもしれない。
最初は葛藤に苦しむあおい でもその葛藤が姉の気持ちを理解するきっかけになる Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
そして、あおいもまた自分自身の選択でしんのと別れる決断をした。あかねが妹の幸せを願ったのと同じように。でも、それを『かわいそう』と思って欲しいだろうか?姉のために犠牲になったって思われたいだろうか。
そんなわけないよね!もちろん別れは悲しい・・・悲しいのは本当だけど、あか姉に罪悪感を持って欲しいなんて思わない。それは自分の希望でもあるんだから!だから『泣いて・・・ないし!』なんだと思う。
こう考えた時・・・ラストシーンはこれしかないと思った。あおいにあかねの想いが伝わった。中途半端なんかじゃない。これこそがこの物語の着地点。
『空の青さを知る』に込められたもう一つの意味。それは『あかねの想いを知る』ということ。それが繋がって見えた時、その作劇の巧みさに感動しました。
エンディングの後日談は蛇足か?
それだけに、エンディングの後日談は賛否両論あって、自分も初見ではエ〜ッ!って感じでしたね。せっかく残した余白を全て埋めるようなエンディング。
だから『蛇足』と言われる気持ちもわかる。でもね、自分はそう斬って捨てるのには抵抗があるんだな。
やっぱり一般向けの作品としてはあそこまで書ききる必要があったんだと思う。
あのラストシーンは最高だけど少し文芸的すぎるんですよね。自分だって2回見て2週間以上考えてたどり着いたから(笑)
美しい自然描写も本作の魅力 あと若山詩音さんの絶叫はすっごく好き。 Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
わかる人には素晴らしいんだけど、多くの人にとって『単に物足りなく感じる』のかもしれない。それはしょうがないと思う。
それは、前作の『心が叫びたがってるんだ』のラストシーンもそんな感じで、あれも素晴らしい終わり方だと思うんだけど、やっぱり批判というか『なんであそこで終わるの?』っていう素朴な疑問が聞かれました。
そこを『それがいいんだよ!』って自分みたいな観客がいうのは良いんだけど、映画としては幅広い人に見てもらいたいわけで・・・だからED内に後日談としてもう一つの着地点を提供するというのはいい選択だと思う。その代わり本編は妥協しない。
色んなやり方があると思うんですよね。エンディング後のエピローグで差し込むとか、小説版で補足するとかね。でも映画の中で完結させるという意味ではエンディング内での補足がベストだったと思う。
実際に、本編でもあの結末は意外というわけじゃないから、本編をぶち壊しって感じじゃないしね。
ただ懸念するのは、結果として『ハッピーエンド』ばかりが印象に残らないか心配。あかねが『都合のいい女性』のような薄っぺらい印象にすり替わってしまう心配があるんだよね。
最後に:
色々書いてしまったけど、初見で号泣してしまってから2週間近くずっと考えさせられる作品でした。自分がおっさんなのは確かだけど『おっさん向け作品』と括られるのはすごく悔しい!って思ったんですよね。
感動しすぎる作品って強さのあまり、精神的にハレーションを起こしてしまって作品全体が見えなくなりますね。でもだんだんと作品全体が見えてきた時あらためて素晴らしさに感動しました。
ああ、やっぱりこの作品はすごい!って、自分の予感は正しかった。この感動をみんなに知ってもらいたい。
千佳とツグ。この二人もすごくいい役だった。 あとベースで警察官のアボを吉野裕行さんにしたのはさすが。 顔が違っても声を聞いてすぐわかる(笑) Ⓒ2019 SORAAO PROJECT |
岡田麿里さんの脚本の魅力って言葉にし難いんだけど、登場人物の思いが交錯していく感じとか、うまくいかない人に対する眼差しとか、この作品もすごくその魅力が出ていたと思いますね。
秩父三部作っていわれるけど、自分は前作の『心が叫びたがってるんだ。』を大絶賛していました。どちらが上とかいえないけど『空の青さを知る人よ』はまさに三部作の締めとするにふさわしい作品でしたね。
今この時に、出会えることができて本当に幸せでした!
監督:長井龍雪/脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀/色彩設計:中島和子
製作:清水博之・川村元気・斎藤俊輔
制作:CloverWorks
『空の青さを知る人よ』公式サイト:https://soraaoproject.jp
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katoさん、こんにちわ!ご無沙汰してます。
返信削除この映画を観たのは2019年秋でした。
冒頭、ベンチに腰掛けて、女子高生(あおい)がベースを弾く場面がとても強烈な印象に残ってます。「おおっ!なんだろ...?」って(笑)この場面は夕日の差す時刻。あかね空の秩父の風景です。
そして、しんのとあおいが「空を飛んだ」後、ラストにむかう場面、あおいの上空にはまぶしく青い空が広がる。
この映画はあかね空ではじまり、あおい空で幕を引きます。
あかねからあおいへ、この先の物語が引き継がれた気がしました。
これをず~っと言いたかったのです、この三年間(笑)
それでは、今度は久しぶりに「劇場版アニメのヒロイン」記事に遊びに来ます。
Hidebowさんコメントありがとうございます。
削除『あかねからあおいへ、この先の物語が引き継がれた』というのは素敵な解釈ですね。確かにその通りかもしれません。
『あの花』ファンからすると地味な作品と言われがちですが、もっと評価されてほしい作品ですね!