文学フリマ(2024年5月)で頒布された低志会さんの会報『自転車のサドルを殴る代わりに低志会の本を埋めて枝を挿す、つまりそれが祈り vol.3 (仮)』を読みました。
実は批評系の同人誌って購入自体初めてだったので、他の作品と比較する事はできないのですが、いい意味で驚いてしまいました。薄いので読みやすいのですが、すごいなぁと圧倒されますね。今回新刊のVol.4が5/11に頒布されるということで、ちょっと中途半端なのですが、もはや今しかないだろ‥‥と思いアップいたします。
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BOOTHでまだ販売中みたいです。 以下の画像は個人で撮影したイメージ写真です。 |
安原まひろ氏『武蔵野の影』
いきなり格調高い書き出しから始まり、もっとくだけた内容をイメージしていた自分は『え?こういう本なの?』と度肝を抜かれてしまい、これを冒頭に持ってくる構成の面白さに感嘆してしまいました。でも決して難しいという事はなくて、むしろ読んでいてとても心地いい。思わず小声で朗読したくなる感じ。あぁ、これは好きかもしれないと期待感が高まります。
序盤は『ある絵画』の描写が続くのだけれど、実際の絵の写真はめくった2ページ目にあって見えない。だから最初は『見ていない絵』の想像が広がって、絵というより筆者の心象風景を共有するような感じになって面白いですね。これは先に絵を見てしまうと得られない感覚な気もする。こういう仕掛けなんだろうか。
その後、国木田独歩に触れつつ、ジブリ作品の『風立ちぬ』まで、自然な流れで武蔵野を語ったところで、一気に『秒速5センチメートル』話へ飛躍する。ここでようやく本稿が低志会の同人誌であることを思い出させてくれてむしろホッとしました。
でも同時に、せっかく気持ちよく読んでいたリズムが崩れてしまうかな‥‥と、少々不安に思ったのですが、それは杞憂で、その後は『独歩個人のエピソード』と『秒速の貴樹くん』とを絡めつつ展開させ、ラストは冒頭の絵画に立ち戻りタイトル回収で締めるという見事な構成。う〜ん上手いなぁ!と感嘆してしまいました。
今はすでに失われた武蔵野の風景を『存在しない異性』と重ね、少々自嘲的な語りで最後はいかにも低志会らしい味わいに着地している。低志会の会報として素晴らしいプロローグになっている気がしますね。
オガワデザイン氏 『武蔵野市吉祥寺の模型専門店のこと』
冒頭に『すみっコ』と書いていて、おっ、今回は早速アニメの話題に入ってきたか‥‥と思ったら、実はココが一番アニメに近い部分で、あとはその辺縁をかすめて飛び去ってしまったような展開。しかし安原氏に続く2編目としてはとても良かったです。
自分はオガワさんより少し年上だと思うけど、地元の模型店で大人に混じって羨望の眼差しで商品を眺めていたという点は共感するところがあります。とはいえ、自分が住むのは埼玉北部の郊外も郊外。自分の場合は、どこまでも続くような平地を延々と自転車を漕いで模型店に行ったのだけど、少年が知らない遠くの土地に移動するという感覚は、今思えば秒速で貴樹くんが栃木に行くシーンと重なりますね。
文中で紹介されたガレージメーカーについては知らなかったので、おもわず『ウェーブF1』を検索してパッケージを見ました。確かにカッコいい!なるほどシンプルだけれど田宮模型などのパッケージとは違った意味で魅力的ですね。当時の自分にはわからない、中央線沿線の、まさに勃興している最中の『新興模型業界の熱気』を30年経った今初めて追体験するという面白さを感じました。
そしてオガワ少年の、若いからこそのちょっとした勘違い(でもこういうのがとても重要なんですよね)から、彼がその熱気に巻き込まれていく様子を、その背景に見える模型店のある街並み、そしてガレージメーカーの盛衰とあわせて描くことで、個人の思い出が貴重な歴史の1ページとして記録されているような感覚になります。
最後は模型業界がその後たどった道と、かつて憧れた『大人』への幻想で締めるのだけど、その着地点が前の章で安原氏が書かれた『武蔵野が持つ虚構性』と重なって見えるのが見事。これが狙ったものなのか偶然なのか‥‥ご本人は「書くことがないので〜」などと謙遜されていたけれど、関係ないようで最後にキッチリとテーマを揃えてくる事に驚嘆しました。
noirse 氏『武蔵野の団地の石』
国木田独歩といえば、文学史の穴埋め問題程度しか知らない自分には、単純にこの博識さに圧倒されてしまうのですが、そんな自分にもわかるように国木田独歩という人間と作品を面白く理解させてくれます。
しかし本稿の凄さは『武蔵野』という地を、幾つもの虚構が地層のように積み重なった地であるという視点で再定義し、驚くほどスリリングな構成で描いている所ですね。
前半の1章2章で、ゆったりと、しかし周到に武蔵野の持つ虚構性を炙り出し、最後の3章で一気に空気を変え、フィクションによって隠された武蔵野の影をハードに論じます。
最終盤、批評家の言葉を引用しながら、凄惨な事件の犯人が語る『さめない夢』と、フィクションを楽しんでいる『自分たちの共通性』が暴かれたその瞬間、急激に高まってくる緊張感に息を呑みました。
そして最後の最後、その限界まで高まった緊張の糸をプツリと切るような、いかにもnoirseさんらしいオチの付け方でクスリと笑わせる‥‥『石』の持つ実在性を、もう一度『アクリルスタンド』というフィクションに裏返して着地させるという、そのセンスの良さには圧倒されました。
まさかあの石のアクスタにこういう意味を持たせるとは‥‥素晴らしいです。なんとも良い読後感でした。
終わりに、とお詫び
実はこの後、てらまっとさんの『さいたまの幻塔』があるのですが、さすがというか、素晴らしい作品なのですが、自分には読み解いているだけで、感想を書く前に力尽きてしまいました‥‥というか、恥ずかしい感想は書けないと気負いすぎたかな(汗)
本当はせめて、てらまっとさんの感想まで書いてから公開する予定だったのですが、とうとう新刊の発売となってしまったので一旦成仏させるために、中途半端ですみませんがアップしたいと思います。
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感想を書くためのメモ‥‥やはり歯ごたえがありますね。 元気があれが書き上げたい‥‥ |
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