第1回 MJオーディオラボのヤマハブースにおいて『ヤマハと創るスピーカー自作&試聴イベント』の投稿作品の試聴会が行われました。ありがたいことに私の応募作品も試聴作品に選んでいただきまして、例によってムチャクチャ緊張しながら発表してきました。
![]() |
イベント自体はヤマハ主催。 試聴会はMJオーディオラボのヤマハブースにて行われました。 |
当日の進行は小澤隆久氏。小澤氏は自らスピーカーの自作や調整を行う実践派オーディオライターとしてご活躍中ですが、当日の解説もとても示唆に富んでおり参考になりました。
このイベントの様子や出品作品の測定図は12/10発売の『MJ無線と実験』2024年冬号に掲載されるとのことです。すでに測定は完了しており、小澤氏は測定グラフの印象と実際に試聴した印象の違いを説明されていました。読むのが楽しみですね〜。
今回は一参加者として各作品の感想を書いていきますが、着座位置も端の方が多く音質については参考程度にお考えください。なにより自分が発表者なので、その前後は緊張MAXであまり聴けてないのはご愛嬌ということで(汗)
当日の発表は投稿作品10作品に小澤氏の新作を加えた11作品。前半は課題曲2曲含む小沢氏の解説10分+後半は作者持参の自由曲10分の合計20分での発表となりました。ラストは全作品一気通貫の連続試聴。さらに番外として昼休みにYAMAHAからの出品作紹介と盛りだくさんな1日でした。
![]() |
プリ/メインアンプ合計200万オーバー こんな高級機材で自分のスピーカーならすとは震えますね |
なお、今回の限定頒布ユニットですが、ヤマハで研究開発中のスピーカーユニットとのこと。硬質で軽量なコーンはもちろん、非常に柔らかな発泡ゴムのエッジについても自社開発で、10年前から試行錯誤されたとのことでした。将来このユニットがどうなっていくのかも興味深いですね。
![]() |
ヤマハの限定頒布ユニット |
また、こちらはスタッフの方の立ち話で聞いたのですが、今回の頒布人数は概ね70名程度だったとのことです。何名くらいの応募作があったのかも質問すればよかったな〜。
※以下作品紹介では、作者名が本名の場合イニシャル(性・名)で記載いたします。内容に間違い等がございましたらコメント欄よりご指摘ください。
小澤氏製作 共鳴管スピーカー
![]() |
小澤氏製作の共鳴管スピーカー |
冒頭とラストは小澤先生の作品。本作を基準にして応募作品を聞き比べる感じでしょうか。前回製作されたバスレフ作品ではなく、このイベント用に新たに製作した作品です。2回折り合計1.8mのテーパー形状の共鳴菅が内蔵されています。1.8m級の共鳴管は私も複数作例がありますが、40〜50Hz程度まで低音をたっぷり伸ばせるので単体でも使いやすいんですよね。
今作では2回折りにして小型化し、音道をテーパー形状にして共鳴音の分散を図っているようです。気をてらわず、あくまで作りやすく楽しめる作例として提案しています。
![]() |
説明する小澤氏 部屋のリスニングテストも入念に行い調整したとの事 |
また、この形式の吸音材の使い方には以前から相当な試行錯誤を繰り返したとのことで『初めの1/3の音道に音が通る吸音材を使うのが最も良い』という貴重な情報をいただきました。
試聴では50Hzまで伸びた低音の厚みが印象的でした。それでいて共鳴菅のクセはかなり抑えられています。オーケストラ曲では広がり感じ共鳴管らしい伸びやかな音。ピアノ曲は重い響きを感じてやっぱり共鳴管とよく合いますね。バスドラムの重い響きも十分感じました。女性ボーカルは課題曲では声に若干歪みを強く感じましたが、自由曲では感じなかったので曲を選ぶかな?
総じて共鳴管の良い部分を感じられて、デメリットであるクセがよく押さえられた作品でした。さすがですね!
『ナチュラルスピーカー』作:T.Iさん
大谷石という栃木名産の石を利用したスピーカー。Tさん、というか塚田氏は大谷石スピーカーを以前から作っておられるベテランで各種コンテストなどでも常連です。もはや有名人なので匿名じゃなくて大丈夫ですよね。
![]() |
いつもながら大谷石の美しい加工が目を惹く作品 |
本作は小型ブックシェルフ型ですが、なんと後面解放型!背面に空いた窓型の開口部が特徴です。これですと低音がスカスカで共鳴音がやかましくなりそうですが、内部を大谷石で荒い段組にすることで共鳴音を抑え、適度な大きさの開口でなだらかな低音を狙っています。
![]() |
背面1/3ほどの大きさの開口部。 内部は大谷石で複雑な構造になっている |
試聴すると後面開放とは思えないバランスの良さ。低音に強調感はありませんが不思議と不足感は感じません。ボーカルは歪みが少なく後面開放らしい明るい音色。変な共鳴音が全然感じないのが不思議なくらいですね。
オーケストラではシンバルの音が印象的。『虹に願いを』ではボーカルに歪み感じず伸びやか。ベースの重い量感こそ少ないがスカスカした音でなく十分音楽を楽しめるバランス。これは驚きました。さすがですね。
小澤氏も「測定上は低音が少なく見えても、これだけ音楽を楽しめる」という点は注目し欲しいと強調していて、F特だけで音を決めつける危険性を語っておられました。
『ホーンブースター付き正12面体BOX』作:自作の友さん
見事な12面体のエンクロージャーに低域ホーン兼スタンドという形式です。氏は以前からこの形式のエンクロジャーを製作してホームページで公開されているのを知っていたので、おぉ、あの方かぁ〜ってちょっと感慨深かったです。吸音材は内部にフェルト貼り付け。
![]() |
12面体が浮いているようなデザイン。 下部がホーン動作して低域を拡大する |
ボーカルの歪み感が少なく、この辺はさすが12面体の効果でしょうか。また、30Hzまで伸びているという低音。9cmユニットとしては目一杯伸ばした感じですね。たっぷりの量感でベースの存在感があります。
![]() |
発表時は低めの高さだったので着座位置によって印象が違うかもしれません。 |
オーケストラではやわらかい印象でバランス良くまとまっていましたが、タンバリンの音が鮮烈で印象的でした。狙い通りの音という感じで、さすが経験豊富な製作者だと感じました。
『RBB-09』作:M.Yさん
外観が大変美しく、書類選考時の写真でもこれは通過するだろうなぁ・・・と感じた作品です。両エッジには黒檀などの銘木材を充てた美しいデザイン。天地面には人工大理石を加工したとのこと。作名のRはラウンドの9cmという意味だそうです。
![]() |
とても滑らかでキレイな仕上げ。 ダクトは底面に開口している。 |
そして、BBはバックロードバスレフ(BHBS)の意味です。バックロードバスレフの大家である石田氏に影響を受けたとのこと。石田氏(kenbe氏)は先行イベントでも見事な作品を発表なさっていましたね。実は石田さんも会場にいらっしゃったのですが、なんと実際にお会いになるのは初めてとのこと!しかもその石田さんがなんと私の隣に座っておられて緊張でした。
試聴ではさすが低域の厚みがしっかりしておりバランスが良く感じます。出てるだけでなく制動が効いた感じで質感も良かったですね。女性ボーカルでは歪みを感じるところもありましたがホーン形状のウェーブガイドの影響でしょうか。フロントホーンって影響が難しいんですよね。反面ジャズなどでは鮮烈さを感じます。総じてバランスの良さを感じる作品でした。
『ブームボックス型アクティブスピーカー』作:森本氏&ヤマハエンジニア
1st Sessionが終了して昼休みの時間帯にヤマハ関係者さんの作例発表がありました。
こちらはavexなどの作品を多く手がけるレコーディングエンジニアの森元氏が自ら使用するために設計し、内蔵アンプはヤマハのエンジニアの方が担当したというアクティブスピーカーです。
![]() |
ユニットを5°外側に向けた取付、中央のフェルト貼付けは 両方ともフルレンジの高域改善を目的にしているという。 |
近接視聴のためにあえて一体型としたコンパクトな1BOX型。容量はトータル5L位の小容量バスレフですが、内部に1/4波長の片閉管を設置し、定在波による影響を低減しているとのこと。さらにバスレフポートにも片閉管を組み込んで、220mmの長いポートによる弊害を低減しているという、見た目のシンプルさとは裏腹のかなり手の込んだ作品でした。
![]() |
裏面にはフルデジタル接続のアンプとパッシブフィルター こちらはヤマハのエンジニアの方が解説 |
試聴して印象的だったのは量感がありながらしっかりした制動感を感じるベースですね。これまでの作品とは質的に違います。高音域も対策のせいか歪みが少なくまさにモニタースピーカーという印象。ロックを聴いてもやかましさを感じません。
ですが、無理やり平坦にしたような音ではなく、フルレンジらしい伸びやかさを残しているのが特徴ですね。吸音材を少なめにして片閉管による定在波対策にした効果でしょうか。
大変面白い体験でした。今回の隠れた注目作品ですね。
『ブルートルネード』作:うさともさん
午後の2nd Session 最初の作品は、塩ビ管と3Dプリント部品を組み合わせた大型のバックロードホーン。大学生二人での製作です。本作は広げる部分に3Dプリント部品を使用。8種類の試作を比べて良いものを選んだとのことで、見た目だけの作品ではないようですね。
![]() |
汎用品と3Dプリントを巧みに組み合わせた作品 |
試聴したところ意外なくらい変な響きがしません。高能率すぎてボリュームを下げるほどでしたが、籠りが少なく見通しがいい音です。伊達に試作を繰り返したわけでないですね。大きなフレア状の開口部からはいかにも共鳴音が響きそうですが、管内に伸ばした吸音材が効果的に使われているようで気になりませんでした。
![]() |
試作したさまざまな形状のヘッド部を紹介する作者さん |
とはいえ、床に直置きですと反射で低音が濁るのでベストな位置になるよう、小澤先生の方でスタンドのセッテングを工夫されたとのこと。なるほど短時間でベストなセッティングに対応できるのはさすがですね。
『マホガニー』作:T.Kさん
これは一見して力作なのがわかる美しい積層の作品。シナアピトン合板を積層して削り出したとのこと。全体が非常に滑らかな曲線を描いています。積層面が美しくなるように重ね方にも気を遣ったそうです。
![]() |
とても美しい仕上げ。積層が美しく見えるようこだわったとのこと。 |
外観を削り出した後に積層をバラして1枚づつ内部をくり抜き、内部は波型の凸凹をあえて作って反射対策をしています。さらに積層部分は10回塗りとのことで素晴らしいつや。大変な手間がかかっていますね。
![]() |
底部も弓形の曲線に加工されている。 |
バッフルも無垢のマホガニー材で木地の色の美しさが映えます。内部はダブルバスレフ構造。作者さんはダブルバスレフを好んで製作しているとのことです。
試聴では、ダブルバスレフらしい強調感のないゆったりとした中低音。それに対して中高音の鮮やかな感じが印象的でした。厚みで剛性のあるエンクロージャーのため、見た目より容量が小さめとなり、作者さんはもう少し容量をとっても良かったかもとおっしゃっていました。
『Dead Vibes』作:K.Tさん
見た目はシンプルですが、6.5kgもの真鍮製デッドマス(錘)をユニットに装着。不要振動を抑えて正確な音を目指した作品。形式はダンプドバスレフ。バッフルリングにはゴムを採用し、フローティングマウントとして振動が伝わらないように配慮しているとのこと。
![]() |
長大なデッドマスの格納で長い奥行き。 箱自体もかなり剛性感が高そうでした。 |
歪みは少なくデッドマスの効果を感じます。とはいえモニター系とは違ってフルレンジらしさを残した音色。チェンバロ曲を流しましたがとても良い響き。もともとヤマハのクラビノーバ用に開発されただけあって、チェンバロのような鍵盤楽器を得意とするユニットの魅力を引き出したスピーカーかもしれません。デッドマスによる音質調整にも興味のわく作品でした。
とはいえ、次は自分の発表なので、緊張で落ち着いて聴けてなかったかも(汗)
『響きのアンサンブル』作:kato19
と、いうわけで、いよいよ自分(kato19)の発表です。
特徴は、上部に大きく開口したフレア状のツインバスレフ。そして、バッフル板に『けやき』と『杉』の無垢材をメインに複数材を貼り合わせた自作集成材を使用して、あえて響きを狙った作品になります。ある意味、直前の作品と好対照のコンセプトになりました。
![]() |
上部スリットダクトに見えるスペーサーを差し込んで共振を調整できます。 両ダクトの合成共振周波数は実測で75Hz程度に調整。 ややハイ上がり特性ですがあえてフィルター無しで仕上げました。 |
当日会場に来てみたら、思ったより小さく見えて、我ながら『か、かわいい〜』って思ってしまいました。楽器をイメージしたデザインなのですが、小澤氏には『ふくろう』という愛称で呼んでいいただきました。
![]() |
内部はMDFに溝を入れて曲げる擬似曲線加工。 |
![]() |
送付して久しぶりに見たので『こんなに小さかったっけ?』と思ってしまった。 |
『アルステル』作:Sさん(シルシルさん)
休憩を挟んで3rd Session。最初は旧Twitter(X)でも存じ上げている『しルしル』さんのアルミ製スピーカー。厚みのあるアルミ板を正確に切り出し、溶接して組み立てる様子がTwitterで公開されていましたが驚きました。塗装も丁寧に仕上げていて美しいです。
![]() |
アルミ溶接でこの複雑な形状を作るのがすごい! 本業で金属加工の業務もなさっているとのことです。 |
アルミ製作だけでもすごいのに、複雑な形状にするため各部品の正確な加工に驚きます。Stereo誌での作品でも端正な音質に驚きましたが、本作はさらに改良を加えた作品とのこと。
しっかりした低音の制動感、音量を上げても破綻する気配すら感じないベースは安心して聴けます。剛性のあるユニットのコーンとの相性も良いようです。クリアな解像感があり、ピアノのホールトーンがきれいに感じられます。でもあの中でVチューバーの曲をかけたのもスゴイぞ!
ちなみに小澤氏によると、この作品と私(kato19)の作品はF特がよく似ているのに、材質によって音色がここまで違う、その辺りも注目してほしいと語っておられました。
『RY-7 (Resonare YAMAHA-Sette)』作:どびんさん
正確に製作した7角柱の樽型箱。その天板に大型バスレフポートを開口させた作品。実は天板に大型バスレフダクトを装着する形式は自分も考えていて、今回はどちらを作るか迷っていたんですよね〜どびんさんの作品を見て『よかった〜こちらを作らないで』ってホッとしました。
![]() |
表面はシート張りでシンプルに。上面の大型ダクトが目を惹く。 |
こんな強敵とかぶっていたのでは出場は覚束なかったでしょう。またユニットの装着方法にも工夫があり振動の抑制を図っているようです。容量は15リットル近くと大型。たっぷりの容量と、67×310mmもの巨大ダクトを9cmの小型ユニットがどう駆動できるか楽しみです。
ユニット口径に比べて巨大なダクトですが、ゴリゴリした低音というよりゆったりとした厚みという印象。開口の大きさから漏れる音が心配ですが、上向きなのと開口位置の調整か、ほとんど変な音は聞こえない気がしました。たっぷりとした容量のバランスの良いスピーカーという印象でしたね。
『ピラミティカルチューブ・バスレフシステム』作:K.Sさん
今回最も背の高い作品。ピラミティカルチューブというのは三角錐状の内部板を備えた共鳴管。その開口部をスリットタイプのバスレフダクトで絞った形式のようです。開口部は前面下部。
小澤先生は最初TQWT(テーパー付き共鳴管)だと思っていたとのことですが、測定上もTQWTに近い特徴を持っているようです。一般的なTQWTと違うのは基本的に三角錐なので並行面が少ないということですね。
![]() |
保護材 兼 ハンドルが特徴的なデザイン |
38Hzから+-5dbで相当なレベルまで平坦になっているとのことで、まさにワイドレンジ。低域は無理なく伸ばしている印象です。バスドラムの重たい響きは、これまでの作品に比べても一段違うレベルですね。同じ共鳴管式の小澤氏の作品と比べても、もう一段深い低音なのは1回折りと2回折りの違いでしょうか。
![]() |
木の棒でユニットの並行を決める 小澤先生の推進している精密セッティングの様子 |
やはり、三角錐&開口部の絞りが効いている気がします。共鳴管の開口部の絞りは自分も経験がありますが非常にマイルドになるので便利ですね。測定上はやはり共鳴管ですので、低域は暴れたグラフになっているとの事ですが、聴感上は量感のメリットの方が大きくてデメリットが気にならないんですよね。
箱自体は合板でしっかりした剛性感があり不安がありません。それにしても規定サイズでよく収まったなぁ〜と感心しました。
フィナーレは楽しく!
![]() |
自分の作品の演奏中の様子 緊張しまくったけど楽しかったです。 (※写真の方はヤマハの人です) |
素晴らしいレポありがとうございます。ふくろうかわいいですね。スピーカーは、音も造形もどちらも大事だと思います。
返信削除お読みいただき、ありがとうございます!
削除