電気曲馬団 水銀楽派 コンサート『月蝕』with 新井英夫 の感想&当時の思い出

2023/11/01

イベント・実写映画感想

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 電気曲馬団の水銀楽派のコンサート『月蝕』with 新井英夫を鑑賞しました。大変素晴らしい経験でしたので感想を残しておきたいと思います。

『月蝕』水銀楽派LIVE with 新井英夫 ダイジェスト

 ところで電気曲馬団の水銀楽派と言われてもなんだかわからない人がほとんどだと思います(とは言え知らない人がこの感想を読むのか?という話もありますが)僭越ながら少々説明しますと、今から30年ほど前、1990年前後に埼玉県や東京都で活動していた電気曲馬団というパフォーマンス劇団があったのです。

 当時自分は高校生〜浪人生くらいでしたが、知人の紹介で多分2度ほど、大宮ソニックシティ前の野外公演と、南千住の公演を見に行った気がします。

 それほど深く関わったわけではないにもかかわらず、前衛的な舞踏や大道芸のようなパフォーマンス、ちょっと怪しげなレトロ調の舞台演出など、そのセンスの良さは、当時多感だった自分には強い印象を残す経験でした。

 話は飛びますが、当時の自分は高校入学早々に演劇部を立ち上げようと思い立ち、まずは実績づくりにと人を集めて公演を行うものの見事に大失敗‥‥演劇部の話も頓挫したという苦い経験をしていました。そんな自分にとって、少し年上とは言え若い人たちがこのようなハイレベルな活動をしていることに驚愕と羨望と嫉妬が入り混じった複雑な思いで見ていたのを思い出します。

 まあ自分の身の上話はこの辺にして話を戻しますと、その電気曲馬団の独自性を強調していたのが音楽でした。クラシカルだけれど楽しげな楽曲‥‥というか『音』そのものがパフォーマンスになっていて、不思議さを強調していた気がします。担当していたのは水銀楽派。当時はよく知りませんでしたが、劇団内における音楽集団だったようです。

 電気曲馬団は'96年に活動を休止し、主宰の新井英夫氏は体奏家としてダンスパフォーマンスの活動に転身。主要メンバーや楽団員もそれぞれの活動に進んでいきました。私自身は演劇とは全く違う世界にいたものの、彼の国内外での活躍はネットなどで伝え聞いていました。

 その新井氏が今年初めTwitterで難病であるASLを発症したと自ら公表。びっくりした私は当時の繋がりのある知人に連絡を取った所、これを機会に集まった仲間と共に演奏会をやるとの話を聞きました。

 メンバーにはハンガリーから帰国したハーディガーディ(テケレー)奏者の高久圭二郎氏や、バロックハープ奏者の渋川美香里氏などがいると聞き、電気曲馬団から現役の演奏家を輩出していた事を知り驚きました。やはり才能を引き寄せる場だったのですねぇ‥‥。

 とはいえ全くの白紙状態からの再起動であり演者スタッフも多忙な世代。企画から公演まで僅かな期間で驚きました。昔のように若いエネルギーで猛進できるわけじゃないのは同年代の自分にもよくわかるわけで‥‥でも、30年の時間を経て新たに生まれる演奏はどんなものか、みんなが歳をとって、単なる再現ではない何か‥‥が見られるのではないかと期待をしてしまいます。まあこれは観客のお気楽さですね。

 さて、ようやく本題である『月蝕』コンサートの感想に入りますが、何ぶん1回しか見てない上に、曲目リストの掲載されたプログラムも公演後に渡していただいたので完全にうろ覚えです。(でも曲目リストを先に頂いていたら、そちらに目が入ってしまって空気感を損なってしまったかもしれないので、これはいいアイディアですね)

 いずれにせよ、かいつまんだ感想になりますので、記憶違いや勘違いがありましたらごめんなさい!映画の感想でも初見での感想というのは見当違いになりがちですね。ご指摘あればコメント欄などからお願いします。

こちらは公演チラシ。曲目のあるプログラムは終演後に手渡されました。

月夜の晩に‥‥コンサート感想

 自分が電気曲馬団でいまだに思い出すのは『月夜の晩に‥‥』というセリフ。とても印象的で電気曲馬団といえば『月』というイメージがあります。奇しくもこの日10月29日は満月でかつ月食の日。

 今回の月食は夕方から始まり開演直前に終わるというタイミングの良さ。(訂正:月食は朝の時間帯だったようです失礼しました)すっかり暗くなった秋の夕べ。もとプラネタリウムであった北とぴあドームホールの小さな舞台には、ピアノ・キーボード、バロックハープ、ギター、ハーディガーディ、パーカッションの演者が準備をしている。

 冒頭、パーカッションが竹のウインドチャイムのカラカラという小さな音を奏でる。照明は通常のまま、あまりにもさりげない音なので、何かの確認かな?と思うほど。ほどなく後ろから横から、スタッフが同じようにウインドチャイムを持って観客に音を出してもらうよう促している。いつ始まるのかと待っていたら、もう始まっているような、この曖昧な感じ。観客はいつの間にか巻き込まれていく。そう言えばこういう劇団だった気がするな‥‥と思い出した。

 客席が暗くなると、8ミリフィルム風の映像がドーム天井のスクリーンに投影される。不思議な装飾のオルガンを弾く少女の映像。実在の背景なのか、飾り付けなのか‥‥奇妙で非現実的な祭壇。

 そこから前半は現代風のバロック音楽という感じの演奏が続く。後にこれが電気曲馬団 野外公演の曲目だと分かるのだが、その時は全く気づかなかった。朗読なども入りつつ、ハーディガーディと小太鼓の行進曲、そしてバロックハープの音色が印象的だった。パフォーマンスと合わせて見た当時は前衛的な印象だったが、こうやって楽曲単体にまとめられてるととても聴きやすい曲だったのだなと意外に感じた。

 中盤になり新井英夫氏が登場しダンスと合わせたパフォーマンスが始まる。影絵の効果が素晴らしい。電動車椅子のため体の動きが上半身に限られる上、とても狭いステージというハンデがあるが、プラネタリウムの半円ドームに大きくゆがんで映る影、これが非常にダイナミックで躍動感を大きく増幅させる。車椅子の複雑な影が回転することで感じる立体感が面白い。そこに大きく上方に伸ばされる腕とその影。その迫力と美しさ。これはあの場に立ち会ったものだけが感じる感覚だろう。

 新井英夫氏は腕の動きにサポートを求めたものの、全く弱々しさを感じさせない。見るものに病であることのネガティブな感情を生じさせない自然な演出は見事であった。彼の声は客席にしっかり通り、30年前、わずか数回聞いた程度の記憶を一気に呼び戻すその声色、あの電気曲馬団の空気感が再現されたのは驚きだった。人の声とはここまで記憶に残るものであったか‥‥。

 そして、彼が動くたびに入る効果音。ハーディガーディとパーカッションによる生SEであった。特にハーディガーディは最初、車椅子の出すノイズかと勘違いするほどでとても面白い効果だった。この効果音以外にもハーディガーディの奏法の多様さには驚かされた。バグパイプのようなリード楽器の音色かと思えば、バイオリンのような弦楽器の音色にもなる。ハンドルとキーを押しながら演奏していると思えば、蓋を開けて直接弦を押さえる奏法。ハンガリーで長年研鑽を積んだ民族音楽の演奏も圧巻であったが、多種多様な奏法を楽しめたのもこの演奏会の隠れた魅力だったのかもしれない。

 その後、二人の少女がパフォーマンスと演奏に加わる。フルートとクラリネット、ウクレレ、ダンス、歌、などなど・・・演者の娘さんとのことだが、演奏も安定しており堂々としたパフォーマンス。この年頃で家族と一緒にやってくれるというだけでも素敵な話なのだけど、この多彩さ、やはり引き継いだ才能というものを感じざるを得ない。

 そして終盤。長尺の映像と合わせた演奏へ。これは圧巻であった。カチカチと鉄球を衝突させるカチカチ玉の映像と、新井氏の目の動きをアップに映した映像が交互に、ときに並んで投影される。一見不気味なようでユーモラスさのある前衛的な映像。このカチカチという映像のリズムに合わせての演奏が、不思議な即興性を感じて面白い。時折映像のリズムの揺れを感じたり微妙な変化の波に揺られる感じがする。これまでとは違うけれどすごく電気曲馬団っぽいなと感じた。

 映像はこの後、30年前の電気曲馬団の古い映像がカットインされ次々と織り込まれていく。これが音楽とあいまって、今風に言えばエモい‥‥胸にグッとくるものがある。こういう構成は想像していなかった。正直ちょっと涙腺が緩んだ。この演奏会でこの種の感動するとは全く思ってなかったのだ。これを最初からベタでやってしまうと『らしくない』のだけれど、こういう織り込み方で出されるとおもわず息を呑んでしまう。すばらしい構成。見事でした。

 そして、現代の新井氏と少女が手の動き介してダンスを伝えるドキュメンタリータッチの映像へ。ここで、この一連の映像作品はまさに『次の世代への繋がり』がテーマなのかもしれないなと感じた。カチカチ玉は玉の衝突したエネルギーが別の鉄球に伝わっていく様子が見える玩具。この演奏会、前半は過去の電気曲馬団の公演楽曲、後半はその後の演奏活動、そして未来へ。30年前の電気曲馬団で打ちつけたエネルギーが色々な人々に伝わって、さらには世代に伝わって今飛び立った。二人の少女はその象徴のように感じた。

 そして終盤は高揚した気分に心地いいピアノ演奏の中、そこにちょっと違和感のある電子音風のメロディーが重なる。これはすごく良かった。これでまた空気を戻してくれる感じ。その後、終演の拍手の中アンコール曲まで90分ほど。大変充実した演奏会でした。

コンサートを見終えて

 この短期間のなか、演奏はもちろん、スタッフの方にとってもステージでの準備などはほとんどぶっつけ本番ではなかったか思います。その状況でも単なる演奏会ではなく、映像や照明と合わせたパフォーマンスがここまで実現されたことは驚きでした。

 即興性というと自分のような素人には軽い感じがしてしまいますが、この演奏会では、今ここで生まれていく面白さを感じることができた気がします。それは同時に儚くもその場で消えていく貴重なもの。そこへさらにテーマ性を盛り込んだ構成になっているところに痺れました。まあ、こういうことを自分が書くことで何かしらの固定をしてしまうようで、なにか野暮な感じもするのですが。

 久しぶりの都内から埼玉の小さな駅に戻り、空を見上げると明るい満月。そのすぐ側には、満月の明るさに負けずに輝く美しい木星が見えました。それはまるで電気曲馬団から生まれた新たな星のようにも見えて、ああ『月蝕』の奇跡にはもう一つ華を添える奇跡があったのだなと少々感傷に浸りながら家路につきました。

「水銀楽派と電気曲馬団」 晦(つごもり)から朔(ついたち)へ 
新井英夫(体奏家 ダンスアーティスト) 
:(フェイスブックによる解説)

高久圭二郎 氏 YouTubeチャンネル(テケレー・ハーディガーディ奏者)https://www.youtube.com/c/Keijike

渋川美香里 氏 ホームページ(古楽ハープ奏者)
https://mikariarpa.wixsite.com/harp

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