『どうにかなる日々』を映画館で見てきました。
4本の短編で合計60分という小品。性愛をテーマに扱いながらも、なんともふんわりした感じで、恋愛とセックスの間のぼんやりした部分を上手にすくい取って描いたような作品。
パッと見ただけだと物足りなく感じるんだけど・・・なんか心に残ってしまって。そこに垣間見えるそこはかとない不安感に気づいた時この作品が好きになりました。
劇場アニメ「どうにかなる日々」本予告(PONY CANYON公式配信)
エモすぎず、じんわり心に残る作品
この作品、志村貴子さんの原作漫画は全然知らなかったんだけど、予告編がすごく良い感じだったんですよね。でも鬼滅人気の大波であっという間に上映が縮小。遠くの映画館までわざわざ行ってしまいました。
一緒に行った奥さんは「悪くないけどTVシリーズでも良いんじゃない?」って感想。確かにTVシリーズだったら人気が出そうな気もするね。でもローティーンの話なんかはちょっと地上波では難しいのかな?って思ったり。
実を言うと自分も予告編のエモさが気に入って見に行ったので肩透かし感はあったんですよね。思ったほど露骨な性描写もないし、短時間だし、感動のドラマもないし・・・とかね。
でも、じんわり心に残るというか。逆にエモすぎないのが良いというか。短編の良さを活かしたアニメになってる気がします。原作だともっと性描写が露骨なのかもしれないけどアニメだと少し強くなりすぎるしね。静かだけど印象的なオープニング 主題歌以外も担当したクリープハイプの劇伴も良かった。 ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 冒頭映像/予告編より画像引用(当ブログの画像引用について) |
この冒頭の雑踏とギター曲の入り混じったオープニングがすごく良かったなぁ。かすかに聞こえるセリフの声が絶妙。
可愛らしい字体のクレジットと合わせてすごく魅力的で。このOPのおかげで短編集が一つの作品としてまとまった気がする。
『どうにかなる日々』冒頭映像(シネマトゥデイ公式配信)
※次章よりネタバレのレビュー・考察となりますのでご注意ください。
エピソード1 えっちゃんとあやさん
最初は百合ちゃんというボーイッシュな女の子をめぐる二人の女性の物語。高校時代の彼女であるえっちゃんと、短大時代の彼女であるあやさん。
えっちゃんとあやさん ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 |
この作品、戯曲『ゴドーを待ちながら』じゃないけど、肝心の百合ちゃんがあまり出てこないのがすごく好き。
ボーイッシュで多分キスをした後に走り去っていく『姿』だけなのが『過去』。そして『現在』は打って変わって新婚さんとなった可愛らしい『声』だけ。
こんなボーイッシュで積極的な印象の百合ちゃん でも電話では全然印象が違うのが面白い ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 |
ある意味、二人の運命を大きく変えたくせにね(笑)でもそれを恨むでもなく、忘れるでもなく、新たな関係になる二人。
最後の『百合ってなんだったんだろうね』ってセリフ。思わず笑ってしまったけど、なんかすごく良いんだよなぁ。二人の青春を走り抜けていく百合ちゃんの姿を思い浮かべてしまいました。
エピソード2 澤先生と矢ヶ崎くん
男子校の教師である澤先生が卒業する矢ヶ崎くんから告白されるシーンから始まる物語。
矢ヶ崎くんとの関係が深まるのかと思いきや、澤先生の日常を中心に心の変化を淡々と追っていくストーリーだったのは意外!
ドロドロ感も社会的苦悩とかも起きそうで起きない。まるで声優の櫻井さんによる朗読劇を見てるような気分になりました。
矢ヶ崎くんのさっぱりした告白 ここから話が展開するのか・・・と思いきや ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 |
滝先生がゲイなのかどうかもぼんやりしていて、男子校のホモソーシャルな関係を背景としながらほのかな性愛を匂わせる。なんとも味わい深い作品。
これはいかにも文学的というか、ストーリーではなく行間で読ませる感じが短編らしくてい良いよね。最後のほっこりとした終わり方も良かった。
エピソード3 しんちゃんと小夜子
セクシービデオに出演した従姉の小夜子が勘当されてしんちゃんの家に居候する物語。
特典映像のファイルーズあいさん 予想以上に小夜子に似てて笑ってしまった。 ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 |
しんちゃんに性的関係をけしかける小夜子。小学生男子の潔癖さで拒絶するしんちゃんとは逆に、幼馴染のみかちゃんが目覚めてしまうわけだけど、ビデオを見た時のみかちゃんの顔が最高でしたね(笑)
センシティブなテーマを扱いながらも両親のあっけらかんさはすごいよね。親が開放的だと子供は逆に慎重になるというか。ある意味信頼してるわけだけどね。まあこの辺は自分に子供がいたらそんな落ち着いても見ていられないかな?恋愛も性愛も未分化の少年と目覚めた少女 微笑ましくも楽しいエピソード ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 |
こんな小学生時代だったらとっても楽しかっただろうなって。ローティーンの性愛というセンシティブなテーマだけど、なんともふんわり味わい深く描いている。
ここからのEp 04への繋がり方も良かったな。
エピソード4 みかちゃんとしんちゃん
しんちゃんとみかちゃんが中学生になった時の物語。
小夜子に未だに囚われてる二人なんだけど、数年経ってようやく小夜子のプッシュが効いてくるというか・・・Hのキッカケになってるんだよね。
しかも肝心の小夜子は結婚して我関せずなのがエピソード1と似てて面白い。
性愛について本格的に意識しはじめた高揚感と緊張感。露骨なのに直接描かない。このへんのさじ加減はホント上手い。いわゆるHなアニメにならない文学的な感じね。まあ、それはこのエピソードに限らないんだけど。
あえて露骨なシーンを外したのは良かった。 直接見せないほうがぼんやりした部分がより伝わる気がする。 ©志村貴子/太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会 |
あと、文化祭に合わせて非公式のベストカップル賞があるような学校。なんか良いなぁ・・・そういうの好き。
それで友人が『ハッ!』って気づいて二人で飛び込んでいくのも良いよね。コラコラ!本当にやってる最中だったらどうすんの!って(笑)興奮で後先考えない感じ。
あれさ、ミカちゃんも『お化け屋敷』ってことは・・・チャンス!って思ったってことだよね。そこも面白いんだけど中学生らしいムラムラした空気感が伝わってきて良かった。
そこはかとない不安感と、タイトルの意味
この作品のタイトル『どうにかなる日々』ってピンとこなかったんですよね。なんでこのタイトルなんだろう・・・って。
でも見終わって、なんか心に残って、なんとなく作品を思い返していたら気づきました。
この作品ってパッと見、ふんわり幸せな印象なんだけど、どのエピソードをみてもそこはかとない不安感とか、なんともはかない感じがするんですよね。
Ep 01の二人はこれからの人生どう進むにしても別れや困難がありそうだなぁ・・・とか、Ep 02の澤先生のなんとも危うい感じとか・・・とか、Ep3,4の二人だって長いこの先ずっと仲良しとは行かないだろうし、小夜子だってなんか色々ありそう・・・とか。
どのエピソードもハッピーエンドなのにかすかに感じる不安・・・でも、まあどうにかなるよね・・・って。
あ!だから『どうにかなる日々』ってことかぁ・・・って妙に納得してしまいました。
まあ、誤読かもしれないけどね。
最後に:はかなく消えていく感覚
『痛いほどの好きは きっといつか愛しくなる』っていうキャッチコピー。これは誰が作ったのか知らないけど・・・沁みますね。
きっといつか・・・の『いつか』を生きている自分には沁みます。でもこの作品はきっとこの視点を大切にしてるんだと思う。
冒頭のOPでも聞こえる『今だから言うけど・・・』というセリフ。きっとこの作品の視点は現在からみた過去。
だからあえて舞台を少し昔の世代のままにしてある気がする。今見ている私たちが、ちょっと前にあったような世界。そんなはかなく消えていく感覚を思い出させてくれる作品でした。
原作:志村貴子
監督:佐藤卓哉/演出:有冨興二
脚本:佐藤卓哉、井出安軌、冨田頼子
キャラクターデザイン:佐川遥/色彩設計:仲村祐栄
美術監督:齋藤幸洋/音楽:クリープハイプ
アニメーション制作:ライデンフィルム京都スタジオ
劇場アニメ「どうにかなる日々」公式サイト:https://dounikanaruhibi.com
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