甘いラブストーリーという評価もあるけど、自分はこの作品の『苦味』を評価したいですね。確かに甘い。甘々です。
でもどんなに甘くしても確かに残る苦味。泣いて、感動して、気持ちよかった〜で終わらない作品。
でもどんなに甘くしても確かに残る苦味。泣いて、感動して、気持ちよかった〜で終わらない作品。
『きみと、波にのれたら』予告編より画像引用 (当ブログの画像引用について) (c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 |
失ったことの悲しみをどう受け入れるかにとどまらず、癒しのその先に見える景色まで描いた作品。
やさしいだけじゃない湯浅監督の真摯な思いが伝わって感動しました。
※後半からネタバレのあるレビューですのでご注意ください。
湯浅監督が一般向けラブストーリー?
前作オリジナル作品だった『夜明け告げるルーのうた』が予想以上に素晴らしい作品だったので、今回も期待せずにはいられませんでした。
ただ予告編をみると、あまりにも今風な定番ラブストーリー!しかも彼氏の死というネタバラシまであるじゃないですか!
明らかにアニメファン向けではない予告 アニメの裾野が広がりに感慨も感じました。 (c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 |
正直なところ、なんだかありがちな展開だなぁ・・・って。これまでは尖った作品の多い湯浅監督。一般向けに舵を切ったにしても大丈夫かな・・・ってちょっと心配に。
湯浅版『君の名は。』かも・・・なんて噂も流れてきましたね(笑)
とはいえ、予告編でここまで見せてしまうということは、本編ではさらなるどんでん返しが?って逆に気になりますよね。(その辺は『君の名は。』がすごかったですもんね)
湯浅監督はどんなものを描いてくれるのか?期待と不安が入り混じってました。
優しさの中にある苦さこそこが魅力!
でもさらなるどんでん返しというビックリ展開ではなく、じっくりと悲しみを受け入れる過程を描くという意外なくらい丁寧な展開でしたね。
もちろん予告にない事件や隠された事実はあるんだけど、あくまで失った後に港の思いをたどっていく物語。死者へ思いを馳せることで喪失を乗り越える。ひな子の心をたどるような展開でした。
絶望の中の再会 コミカルな感じが湯浅作品らしいですね (c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 |
世間の評価では優しさやラブストーリーが強調されてるけど・・・自分は言いたい。この作品は優しさの中にある苦さこそが魅力だと。
本編に何度も出てくるコーヒーのシーン。これは苦味のモチーフだと受け取ったんですよね。いくら砂糖を足して甘くたって苦味は消えない。
この後味の苦味こそがこの作品の魅力だと思います。
※次項よりネタバレあります。
衝撃のラストシーン
それを一番強く感じたのはラストシーン!あの衝撃はすごかったです。
やっと一人で立ち上がることができたように見えるひな子。そこに突然の時を超えた港の言葉・・・でもそれは突きつけられる『港はもういない』という現実。
それをこのタイミングで出すか・・・って。
だって、自分を好きになってくれた後輩君を妹に託して送り出し、一人ぼっちになった瞬間にあの放送ですよ。
後輩の山葵や妹の洋子に支えられながら 今度は二人の後押しをするまでになるひな子 (c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 |
伏線を回収した感動シーンと見ることもできるけど、自分はあえてこのタイミングで出す湯浅監督すごい!と感じるシーンでした。
新たな人生を踏み出す・・・って綺麗事じゃない
みんなに助けられて、港にも助けられて、そしてやっと立ち上がれた瞬間に・・・突然自分を引っ張ってくれた糸が切れるように号泣するひな子。
癒しは終わった・・・現実はもういない。みんなに支えられ、自分も頑張った1年間。それはこの現実を受け入れるための準備の時間だったなんて。
時を超えた港の愛の言葉。 でも2人の時間はもう戻ってこないことを思い知らされる残酷な言葉。 (c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 |
そりゃあ、港との絆が消えてなくなるわけじゃ無い。心の中にいつも一緒にいる・・・って理解してる。でも現実はもういない。その現実を残酷なまでに強調するエンディング。
悲しみを乗り越えて新たな人生を踏み出す・・・って綺麗事じゃないよね。そこに湯浅監督のメッセージを強く感じました。
悲しかったけど立ち直ってよかったね・・・で終わらないのが本当に素晴らしいと思うんです。
癒しのその先に・・・
今回の作品、別れとどう向き合うかという意味で『夜明け告げるルーのうた』と通じるテーマを感じました。
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あの作品も底抜けな明るさに混じる寂しい後味が印象的でしたね。同時に震災の影響を強く感じる作品でもありました。
あれから2年。今作は直接震災をイメージさせることはないけど、より普遍的な形でその先を描いている気がします。
水の中の港との再会は喪失への癒し。 『ルーのうた』のたこ婆さんを思いだします。 (c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 |
悲しみを乗り越えるには癒しが必要だけど、新たな人生を踏み出しても悲しみが消えるわけではない。悲しみを抱いたまま生きるしかない。
『夜明け告げるルーのうた』が癒しの作品なら、今作の『きみと、波にのれたら』は癒しの先に見える景色を描いた作品じゃないでしょうか。
最後に:心がヒリヒリ痛む作品
もちろん、甘々ラブストーリーの部分もすごくいいですよね。二人が笑いながら歌を歌ってる部分の演出。あれはなかなかすごかった。(笑)
でも、自分が上で書いたような事って、言葉にすると逆に伝わらないけど、こういう作品に乗せると伝わる。
甘々かもしれないけど見終わった後に心がヒリヒリ痛む、娯楽としての感動じゃない、明るさと寂しさをあわせ飲むよう作品でした。
まあ、前作とどちらが好きか?と言われれば『夜明け告げるルーのうた』の方が好みかなぁ・・・あの独特な感じが好きでした。
『きみと、波にのれたら』はこれまで湯浅作品を敬遠してた人の方が向いてるかもしれませんね。
アニメファンの裾野を超えて広がって欲しい作品です。
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
音楽:大島ミチル
キャラクターデザイン・総作画監督:小島崇史
色彩設計:中村絢郁
アニメーション制作:サイエンスSARU
湯浅監督の作品は未見でしたが、近所の映画館でかかっていたのと「脚本:吉田玲子」を信じて(苦笑)。
返信削除監督以下スタッフの共同作業で紡ぎ出されるアニメーション作品で重視し過ぎると評価を誤りかねないのは承知の上ですが、ネット辞書の記載を信じる限りでは小生と同年代で隣県出身の吉田さんの描く話は私の子供のころにテレビで見たバラエティやギャグの香りが読み取れて、不謹慎ながら湧き出る笑いを堪えていました。
大切な人の死という悲しみとどう向き合ってそして乗り越えていくか、湯浅監督と吉田さんが軽快かつ真摯な姿勢で紡いでいった物語と以前は結論付けようとしていました、公開終盤に起こってしまったあの事件の前までは。
私のアニメ好きを知っている何人かの同僚から「顔が青ざめている」と言われ、プライベートでは暫く茫然としていましたが、それでも仕事は巡ってくる、無味乾燥な文献にあたり書類を作成し完了後顧客から債権を回収しなければならない。茫然となっているはずのプライベートでも掃除、買い物、料金支払、やるべきことはいっぱいある。
たとえどんなことがあっても、悲しみや躓きをたとえ乗り越えられなくても維持しなければならない日常、そのつらさと大切さを描いた作品なのだと今は思うのです。
コメントありがとうございます!後ほど改めて返信いたします。少しお待ちください。
削除コメントありがとうございます!返信遅くなりました。
削除コメント読ませていただいて、自分がこの作品見たのがあの事件の約1ヶ月前だったことを思い出しました。あの事件の前後ですごい断絶感があります。見える世界が変わってしまって前後の記憶は曖昧な感じがします。
コメントをきっかけに色々思い返すことがありました。いま改めて『きみと、波にのれたら』を見たら印象がまた違う気がしますね。感想を読み直してみるとラストシーンを冷静に受け止めていますが、今ならちょっと無理かもしれないですね。客観的な観客ではいられない気がします。
それでも、おっしゃる通り『日常』が巡ってくるんですよね。半年経ってだんだんと生活を取り戻してきました。でもきっかけがあるとまた引き戻される気がします。まさにこの現実と作品がリンクして感じてしまいますね。自分ですらそうなんだから、本当の当事者である方々のことを考えると辛いですね。
実はコメントいただくまでこの作品についてこういう考えは持っていませんでした。本当に半年過ぎた今だからこそ分かる感情という気がします。同時にこの感想を書いていて良かったと思いました。こういう視点で見直させてくれたコメントに感謝です。ありがとうございました!