画像引用の疑問点:有料配信動画のスクリーンショットを引用できるか?

2016/03/07

アニメ 著作権

t f B! P L

 以前書いた『アニメブログの画像引用で違法と言われない著作権法のポイント』という記事に次のようなコメントを頂きました。ありがとうございます。

『huluやnetflixで配信されている有料コンテンツも、youtubeと同じようにスクリーンショットをとって貼っていいのでしょうか?』匿名 2016年2月28日

 私も同じく有料配信のアニメサイト『Dアニメストア』に加入しています。このブログでも一部Dアニメストアからのスクリーンショット画像を引用に利用しています。もちろんYouTubeからも利用しています。

 私はどういう理屈で引用しているのか?一言コメントで説明するのは無理があるので独立した投稿にしてみました。
ネット配信動画の権利の関係

 私は弁護士ではありませんので、直接可否をアドバイスすることはできませんが、実際に画像引用を利用している当事者として、自分がどういう認識で利用しているかを説明したいと思います。よろしければ参考にしてください。

 この記事は下記の記事を読んだことを前提に書いていますので、未見の方はこちらを先に読んでいただければと思います。
『アニメブログの画像引用で違法と言われない著作権法のポイント』- アニメとスピーカーと‥
【注意】本稿は文科省審議会などの議論を参考にしていますが、未だ未確定な部分も多く個人の解釈も含まれます。あくまで私の場合の事例で一般的になんら推奨・保証するものではありませんのでご注意ください。

【目次】
・何が問題になるのか?3つの疑問点
疑問1:有料か無料かで画像引用に違いはあるか?
・動画配信では利用規約が問題に・・・
・引用のためにスクリーンショットが使える理由
疑問2:引用のためのスクリーンショットは『禁止された複製』にあたるか?
 ・引用のためのスクリーンショットが禁止されない理由
 ・契約は著作権法に優越するか(オーバーライド問題)
疑問3:退会した後も引用が続けられるか?
・結論は
・最後に

何が問題になるのか?3つの疑問点


 本当は前回のように結論を3行でまとめたいところなのですが・・・今回は誤解を招く恐れもあるので結論は最後です。はじめに『何が問題になるのか?』という点を説明します。

その上で次の3点が問題になると思います。
1 有料か無料かで画像引用に違いはある?
2 引用のためのスクリーンショット撮影は利用規約違反
退会後も引用が続けられる?
※当然ながら前記事の『引用の基準を満たしている』『違法な手段で撮影しない』を満たしている事が前提です。

1.有料か無料かで画像引用に違いはあるか?


 著作権法上の『引用』では、引用される著作物(この場合アニメ動画)が有料か無料かを区別していません

 文章の引用においては、有料の書籍等から引用するのは当然ですし、美術の著作物でも同じです。(ただし単独で鑑賞できないような配慮は必要ですが)
※具体的な画像引用の注意はこちらに詳細(更新済)

 ちなみに119条に『有償著作物』という言葉がありますが、これは違法ダウンロードの問題ですから引用とは関係ありません。

著作権者との関係では有料・無料は問題にならない

 著作権者との関係においては有料か無料かの違いはありません。ですから著作権法上は有料配信であっても合法的な画像引用はできると考えます。しかし配信会社との関係はまた別の話・・・。

動画配信では利用規約が問題に・・・


 今回の場合は、著作権者と視聴者の間に『配信会社』が入ります。TV放送局や出版社と違うのは、視聴にあたって利用規約という契約に同意していることですね。

 これは、有料でも無料でも基本的に変わりません。YouTubeなど無料会員の配信であっても利用規約に同意しているわけです。

配信会社との関係では、利用規約が問題になる
【参考】Dアニメストア利用規約 (6条 対象コンテンツの使用条件)

 『画像引用のためにスクリーンショットを撮影する事』は利用規約に違反しないか?という点が問題になります。違反であれば契約解除になるかもしれません。

引用のためにスクリーンショットが使える理由


 そもそも引用のためにスクリーンショットを撮るという行為はどんな根拠で認められているのでしょうか?引用の条文と私的複製の条文を見比べてみます。
32条(引用)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
30条 (私的複製)
著作権の目的となつている著作物(中略)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(中略)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる

 改めて引用の条文をみると『複製』の文言がありませんよね。『引用して利用』となっています。これは同じような例外規定である『30条(私的複製)』などと比べても、より包括的な表現になっているといえますよね。
複製に比べて利用の文言はより包括的な表現となっている

 『引用して利用』には、引用を実現するため一時的な複製(撮影)も当然含まれている事は明らかで、スクリーンショットの撮影もその一部と言えます。

※ちなみにこの場合の『スクリーンショット』は、標準の機能で撮影出来るスクリーンショットのことです。DVDやブルーレイのような技術的保護がされているものは除きます。技術的保護を回避する行為は著作権法30条1項2(私的複製の例外)に違反する可能性があります。

2-1.引用のためのスクリーンショットは『禁止された複製』にあたるか?


 それでは引用目的のスクリーンショットは規約で禁止されているのでしょうか?例として私の契約しているDアニメストアの利用規約を見てみます。
6条 1項 ドコモは、本規約等の規定に従って対象コンテンツを使用していただくという条件において、対象コンテンツの日本国内における非独占的かつ譲渡不能の使用権を、お客さまに対して有償で許諾します。 - Dアニメストア利用規約

 この条項は一般的なソフトウェアの使用許諾と同じですね。これ自体に引用やスクリーンショットを制限する要素は見出しにくいと思います。
6条 6項 お客さまは、対象コンテンツの使用にあたり、次の各号に定める事項を遵守するものとします。
1 お客さまは、第1項に記載した範囲を超えて対象コンテンツを利用または使用してはなりません。
2 お客さまは、対象コンテンツの全部または一部を複製、改変、改ざんし、または逆コンパイル、逆アセンブル、リバースエンジニアリング、その他内容を解析して、人間が読み取り可能な形に変換することを行ってはなりません。 

 スクリーンショットを禁止する可能性があるのはこの条項だと思います。6-6-2で『対象コンテンツの全部または一部を複製』という部分ですね。この文言によって引用目的のスクリーンショットも禁止されているのでしょうか?

2-1.引用のためのスクリーンショットが禁止されない理由


 私は引用のためのスクリーンショットの撮影は、この利用規約に違反していないと考えています。その理由は次の2点です。

  • 規約の趣旨はダビンク行為の禁止だから

 この条文の趣旨は『違法なダビング行為の防止』であることは明らかです。著作権法30条1項2(私的複製の例外)で違法化されたとはいえ、民事上でも禁止するための条文です。

 それは、その後に続く条文をみても、また6条全体の位置付けとしても、クラッキング等による動画の複製行為を想定していると読むのが自然です。1項にある通常の『使用権』を逸脱した行為を列挙しているわけですね。

 適法な引用は、個人の著作物の利用方法としてごく一般的なものであり、通常の『使用権』を逸脱した行為と同列に考えるのは無理があります。

  • 規約の『複製』には引用での利用が含まれないから

 もう一つの理由は『複製』の定義です。規約の文言にある『複製』というのは、著作権法にある私的複製などの行為を指しているのであって、『引用として利用』はそもそも含まれないからです。

 先ほどの章でも説明しましたが、著作権法31条の引用規定には『複製』という文言があえて使われていません。
著作権法では複製と利用が分けて書かれている

 著作権法の例外規定(権利制限)はたくさん列挙されているのですが、『複製できる』と明記されているものと、それ以外が分けて書かれています。(※)

※(参考)文化庁:著作物が自由に使える場合 一覧

 それに準じて規約を読むと、禁止されているのはあくまで著作権法上の『複製』行為であって『引用として利用』は禁止されていないと読むのが理にかなっています。

 以上の理由から、Dアニメストアの利用規約では引用のためのスクリーンショット(もしくは撮影)は禁止されていないと解釈します。

 でも、もし万が一、配信業者側から『規約で引用のためでも禁止しています』と主張されたらどうでしょうか?この論だとスクリーンショットだけでなく画面撮影も禁止になってしまいそうです・・・。

 著作権法上は合法である引用を、個別契約で制限する事はできるのでしょうか?

契約は著作権法に優越するか(オーバーライド問題)


 もしも配信業者が『引用での利用』自体を明確に禁止した場合はどうなるのでしょうか。利用者が同意したのだから有効なのでしょうか?

 『著作権法上の引用』という権利を『個別の契約』で制限できるのか・・・法律用語では強行規定・任意規定などといわれますが、オーバーライド(無効にする)問題と呼ばれる議論になるようです。
著作権法の引用を個別の契約で禁止できるのか?

 日本では契約自由の原則があり、法律で規定があっても強行規定でなければ契約が優先されることになっています。しかし強行規定かどうかは明確ではありません

 著作権法は強行規定なのか。私の知るところでは、少なくとも著作権法32条の引用については、白黒はっきりした見解はないようです。しかし文部科学省の文化審議会で参考になる議論があります。

 要約すると・・・引用の規定は個別契約で制限できる。しかし、その制限は公益性の観点から考えて限定的である・・・ということです。
『例えば、第32条の引用や第42条の裁判手続き等における複製の規定についても、これらをオーバーライドするあらゆる契約が一切無効であるとまでは言えず、この意味で強行規定ではないと考えられる。ただし、各権利制限規定が設けられている根拠には必要性や公益性という点で濃淡があり、これらは公益性の観点からの要請が大きいことから、オーバーライドする契約が有効と認められるケースは限定的であると考えられる。』
H19年 文化審議会著作権分科会報告書 第1章 第3節より一部抜粋

 つまり必要性公益性を覆すような、よほどの事情がなければ引用を制限する契約は認められないだろう・・・という事ですね。

 例えば映画館でのビデオ撮影は、多大で回復不能な損害が想定されたため『映画盗撮防止法』で30条私的利用の例外とされました。これに類するような止むを得ない事情があれば契約で制限することもできるという事だと思います。

 しかし、今回のスクリーンショットの場合『適法な引用』であれば、配信会社が被る経済的損失は無いに等しく、他の客に迷惑をかける恐れもありませんので、公益性を覆すほどの理由になるはずがありませんよね。

 もちろん、行政の審議会ですので司法判断には直接影響は与えませんが、考え方として大いに参考になると思います。

3.退会した後も引用が続けられるか?


 最後の疑問点として、引用がOKだったとして、有料配信を退会したらどうなるのか?という点について考えます。

 引用はあくまで著作権者との関係の問題ですから、スクリーンショットを撮影するという点がクリアされれば、配信業者との問題はないと考えるのが自然ですよね。

 もしも、『引用する間はずっとお金を支払い続けなければならない』とすると、事実上の引用の制限になるわけで、さきほどのオーバーライド問題と同じになります。

 また、レンタルCDは音楽用CD-Rを使って合法的に私的複製できますが、レンタル終了後に聴いても問題にされていない現状を考えると、より公益性が高く権利者の損害も少ない引用が問題になる可能性は低いと考えています。


結論は


 以上が私の解釈です。この考えに基づいて当ブログでも画像引用しています。結論をまとめると次の通りです。(他社の契約はそれぞれでご検討ください)

有料配信のアニメでも画像引用できるか?

  • 有料無料に関係なく、引用で著作権者の権利は侵害されない
  • 利用規約(Dアニメストア)の複製禁止規定は引用を制限していない。
  • よって引用のためのスクリーンショットは問題ない

 さらに言えば、仮に利用規約で明確に禁止したとしても、特別な事情があるとはいえないので十分争えるはず・・・という事ですね。(争いたくはありませんが)

 まあ現実には、配信会社には訴えたくなる経済的損失がほぼないですからね。映画盗撮のように著作権者も映画館も多大な損失を被る場合はともかく、合法な範囲の画像引用では、宣伝効果こそあれ禁止するメリットがほとんどありません。

最後に


 そんなに言うなら『直接配信会社に聞いて白黒はっきりすれば?』って言われそうですが・・・そこはわざわざ面倒な話にしなくても(笑)そもそもこれを説明するのが大変ですしね。問題があるという事でしたら是非直接ご連絡いただければと思います。

 ちなみに、引用とは言えない無断転載サイトの類は上記の主張は一切できません。配信会社も経済的損失があり本気で訴えてくるかもしれませんね。そのようなサイトは、決して有料コンテンツからのスクショは利用しない事をお勧めします(笑)

 今後も『Dアニメストア』のように安くて高クオリティーのアニメを配信してくれる事業者からは、感謝の念をもって引用させて頂こうと思っています。もし引用を禁止するような事業者があれば、やはりそういう配信業者には加入したくないですよね。

【ご注意】以上は私の環境での解釈です。他社利用などそれぞれの環境で違いますので参考にする場合はくれぐれもご注意ください。問題点があればお気軽にコメントいただければ幸いです♪

※なお、YouTubeの利用規約もほぼ同じ解釈で利用しています。さらに言えば、YouTubeは『時事の事件の報道のための利用(著作権法 第41条)』を容認していると思われるので、当然『引用』も容認されると考えています。

参考:
Dアニメストア 利用規約(6条)
YouTube 利用規約 (4条・5条)
H19年 文化審議会著作権分科会報告書 第1章 第3節
『アニメブログの画像引用で違法と言われない著作権法のポイント』- アニメとスピーカーと‥

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